小林 雅治 日本原子力産業協会
「(上)趨勢は継続・拡大」より続く。
(写真・ロシア、ロスアトム社。最新型原発)
(写真・国営のロスアトム社のセルゲイ・キリエンコ社長とプーチン大統領の会談。ロシアは国の支援で原子力輸出を進める)
3・主要国の原子力開発動向
福島事故後の世界各国の原子力政策や原子力計画から、大きく原子力推進国と原子力撤退国(脱原子力国)に分類される。さらに現在、原子力発電所を持っている国とこれから原子力発電所を持とうとしている国(新規導入国)に分類される。
脱原子力国には、ドイツ、イタリア、スイス、台湾などが含まれる。これらの国は原子力発電所を早期に閉鎖するか、寿命延長やリプレースを行わないとしている。
ここでは主な原子力発電国と新規導入国について簡潔に紹介する。(表6参照)
表6・世界各国・地域の原子力発電開発状況
(1)米国
現在100基、約1億kWの原子力発電所を持つ世界最大の原子力国である。1979年のTMI(スリーマイル島)事故以来、原子力の新規建設はゼロであったが、2012年、30数年ぶりに新規原発4基の建設・運転一括許認可(COL)が発給され、翌年に本格着工した。現在約20基がCOL申請中であるが、最近のシェールガス革命の影響で、原子力復活の勢いは小さい。
しかし、この停滞の約30年間に、原子力の運転面では①設備利用率の改善(1990年代の70%程度から2000年代90%前後へ向上)、②出力向上(これまでに累計で約600万kWの出力増加)、③運転期間の延長(78基が40年から60年への運転延長認可取得)、の3大進歩がなされた。
(2)フランス
58基、約6300万kWの原発を持つ世界第2の原子力国であり、原子力の発電電力量シェアは75%で世界一である。
フランスが誇る欧州加圧水型炉(EPR)がフィンランド、仏及び中国で建設中であり、さらに米・中・印・英でもEPRの建設計画が進められている。2012年春に誕生した社会党のオランド大統領は「2025年迄に原発依存率を50%に縮小、最古のフェッセンハイム原発閉鎖」を公約に掲げているが、その実行性については必ずしも確実ではない。
(3)ロシア
1986年のチェルノブイリ事故後、原子力開発はしばらく停滞していたが、21世紀に入って、活発に原子力開発を進めている。現在33基、約2400万kWが運転中で、世界4位の原発国である。さらに10基が建設中である。
中国、インド、イラン、ウクライナで原発を建設済みまたは建設中。最近では、ベトナム、トルコ、ベラルーシ、バングラデシュへの輸出に成功している。
(4)英国
16基、約1000万kWの原発が運転中である。PWR1基を除く15基は旧式なため、2023年迄に全て運転終了の見込み。政府の政策として、エネルギー安全保障と気候変動対策の両面から、約1900万kWの新規原発の建設を見込み、8サイトを承認済みである。
電力自由化の徹底している英国では、原発事業者は外資系で、フランスのEDFエナジー(中国も参加)、日立傘下のホライズン、及びニュージェン(東芝、GDFスエズ)の3社が計約11基、約1600万kWの建設計画を進めている。
(5)中国
運転中19基、約1600万kW、建設中29基、約3200万kW。中国は世界で建設中原発の約4割を占める。
福島事故後の約1年半、中国は、運転中原発の安全検査、や原子力安全計画の策定まで、新規建設計画の審査・承認を一時凍結した。ただし建設中原発の建設継続は認められた。その結果、2011年7月には高速実験炉(CEFR)が発電開始、同年8月には嶺澳原発Ⅱ-2号機が福島事故後、世界で最初に商業運転を開始した。
中国は、米WH製のAP1000を三門と海陽の2サイトに2基ずつ、さらに仏アレバ製EPRを台山に2基建設中である。原発規模は、2015年に4000万kW、2020年に7000万kWに拡大する見込み。
(6)韓国
23基、計2080万kWの原発を運転中の韓国は、ドイツを抜いて世界5位の原子力国である。さらに5基、690万kWが建設中、6基、870万kWが計画中である。
日本と同様にエネルギー資源に恵まれない韓国は、原子力を基幹エネルギーに据えている。当初、米加仏から原子炉を導入したが、国産化を達成。2009年12月、韓国はアラブ首長国連邦(UAE)から原発4基の受注に成功し、その実力を世界に見せ付けた。
(7)インド
21基、530万kWの原発が運転中、6基、430万kWが建設中。1974年の第1回核実験以来、国際的に孤立し、自力開発による重水炉(PHWR)を建設してきた。自国内にウラン資源が乏しいことから、豊富に有するトリウム資源を利用し、重水炉と高速増殖炉を組み合わせた独自の三段階の開発計画を立てている。2032年には、総発電設備7億kWの9%(6300万kW)を原発で賄う目標を掲げている。
2008年9月、インドへの原発や核燃料の輸出が解禁され、米WH、GE日立、仏アレバ、露ASEがインドへの原発売込みを図っている。
(8)スウェーデン
スウェーデンは1980年の原発国民投票を受けて、議会で2010年迄の段階的廃止を決議した。しかし、その後、代替電源の開発が難しいということで、廃止期限が撤廃され、さらに2010年には脱原子力撤回法案が可決され、運転中の原発は寿命後、同サイトでリプレースができることになった。大型炉でリプレースすれば、全体の原発規模は増大することになる。
(9)新規導入国
IAEAによると、60カ国がエネルギーミックスに原子力を含めることを検討しており、このうち12カ国が原発計画を作成中であり、2030年迄には20カ国が原子力発電国の仲間入りをする可能性がある。
ベトナムは、14基の建設計画を持ち、福島事故の前にロシアから2基の購入を決め、福島事故後も2基の供給者として日本を選定した。
バングラデシュは、2011年11月、ロシアと原発2基の建設協定を結び、2014年の着工を目指している。
アラブ首長国連邦(UAE)では、福島事故直後の2011年3月14日に、バラカ原発(韓国製)の起工式が行われた。2012年7月、同1号機が本格着工した。
ヨルダンでは、日仏企業連合アトメアとロシアが受注獲得へしのぎを削っていたが、昨年10月、ロシア企業が供給者に選ばれた。
トルコでは、アックユ・サイト(2010年5月、ロシア建設で合意、4基)に続くシノップ・サイト(4基)への原発建設について、2013年5月の安倍首相訪問時に、日仏企業連合アトメアに優先交渉権が与えられた。
サウジアラビアは、原発導入組織として「アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市」を創設し、2011年6月には、2030年迄に原発16基の建設計画を発表した。
リトアニアは2012年3月、日立との間でビサギナス原発建設について事業権付与契約に合意した。総選挙の結果、若干の紆余曲折があったが、建設交渉が継続中である。
ポーランドは、建設サイトを3ヶ所に絞り2030年迄に600万kWの原発を建設する計画である。
ベラルーシは、福島事故後の2011年3月15日、原発2基建設でロシアと合意し、2013年11月には本格着工した。
4・将来炉の開発
原子力開発の将来を考えた場合、現行の軽水炉の改良・拡大利用は勿論であるが、技術革新に基づいた資源・環境・利便性等の面で質的な飛躍を目指した新しい原子炉として高速炉や中小型炉の開発が進められている。
高速炉開発について、日本のもんじゅが1995年以来ほぼ停止状態であるのに対して、世界では着実に前進している。中国では、福島事故後の2011年7月、実験炉CEFR(2.5万kW)が発電を開始した。ロシアからの導入により原型炉BN800も建設する計画である。インドは1985年より、実験炉FBTR(1.3万kW)が運転中であり、50万kWの原型炉PFBRが年内にも試運転開始の予定。ロシアでは1980年以来、ベロヤルスクで原型炉BN600(60万kW)がほぼ順調に運転中である。同サイトでは、建設中のBN800が今年4月にも初臨界し、年内に商業運転の見込みであり、さらにBN1200の建設も計画されている。フランスも、高速炉ASTRID(50~60万kW)について、2020年頃の運転開始を目指して作業を進めている。
高速炉は、高速増殖炉とも呼ばれるように、消費した核燃料よりも多くの核燃料を生み出すことができ、ウラン資源を数十倍有効利用できる。一方、高速炉で使用する高速中性子は長寿命放射性核種を短寿命の核種に変換できるので、高レベル廃棄物の放射能の寿命や量を減少させる技術としても期待されている。
中小型炉については、米国エネルギー省(DOE)が、2012年から官民折半負担による小型モジュール炉(SMR)開発支援計画をスタートさせた。原子力規制委員会(NRC)によるSMRの設計認証と許認可取得を支援するというもの で、一般公募の結果、2012年11月にB&W社のmPower炉が、さらに2013年12月にニュースケール・パワー社のSMRが選定された。
SMRは、電気出力が30万kW以下の炉で、工場でほぼ完成品の形で製造し、需要地まで運搬すれば、すぐに利用できる。小さな需要や需要変動に柔軟に対応でき、安全性、立地、建設、経済性等のメリットが挙げられている。既存電源の補完や老朽火力の代替、熱供給などに加えて、輸出向けにも期待されている。
ロシアでは10隻余りの原子力砕氷船が就航しているほか、これに搭載されている舶用炉KLT-40を利用した浮揚式の熱電併給の原子力発電所が建設中である。中国では、清華大学の試験炉HTR-10(熱出力1万kW)の研究成果を踏まえて、2012年12月、石島湾で高温ガス炉(電気出力21万kW)の建設が始まった。
韓国では中小型炉SMARTが2011年7月、規制当局から標準設計認証を受けた。電気出力10万kWで、海水淡水化にも適しているとして、中東諸国などへの売込みに力を入れている。日本では高温ガス炉HTTR(熱出力3万kW)が1998年に初臨界した。950度の高温連続運転にも成功し、水素製造にも成功したが、次の開発段階が決まっていない。
5・日本の原子力国際展開について
安倍首相は、13年4~5月の連休、中東諸国を訪問し、原子力首脳外交を展開した。トルコでは、同国のシノップ原発計画について日仏企業連合への優先交渉権付与で合意した。サウジアラビアやアラブ首長国連邦とも、二国間原子力協定の締結や締結交渉促進で合意した。
安倍首相は、13年5月13日の参院予算委員会で、原発輸出について、「各国から我が国の原発技術への高い期待が示されている。私自身もリーダーシップを発揮し、わが国の技術を提供していく。事故の経験と教訓を世界と共有することによって、世界の原子力安全の向上に貢献していくことがわが国の責務だ」と強調した。
2000年代に入ってから、世界的な原子力ルネサンスの動きの中で、原子炉メーカーの国際的な再編・連携が進展したが、そのキープレーヤーは、わが国のメーカー(東芝、日立、三菱重工業の3メーカー)だった。1980年代以降の世界的な原子力の冬の時代でも、わが国では、新規建設を着実に推進し、設計・製造・建設、更には運転・保守面で、高い技術能力と信頼性を築いてきた。
原発の新規導入に当たっては、核不拡散・原子力安全・核セキュリティー等に関する体制の整備は勿論であるが、原発の運転管理や資金面等の支援も必要である。福島の経験と教訓を生かし、新規導入国等のニーズに応じて、官民を含めた柔軟で強力な体制を構築して、世界の安全な原子力開発に貢献していく必要がある。