日本から中国をどう見るか、人によってその価値観はかなり相違するでしょう。純粋な国家間の関係の視点もあるし、企業がビジネスの基盤として捉える場合もあります。あるいは文化や交流という観点もあるでしょう。それら見方はそれぞれにポイントが違うため、総合判断で二者択一の選択を迫る意味はほぼないと言ってよいでしょう。
その前提を踏まえた上で利害関係もなく、ビジネス関係もなく、居住地も第三国という私が遠巻きにみる中国には今、一定の不安感を持っています。一言で言うと統治のリスクであります。
13億の民を共産党という一つの主義、思想に押し付け、情報化時代にその情報を選り分けることでマインドコントロールするという前近代的統治方法が習体制あるいはその後に続く国家主席の能力をもって永続的に可能なのか、疑問符だらけであります。
最近の中国は体制の維持のための政策が主流となっています。AIIBはなぜできたかといえばその仕組みを使い、中華思想の拡大に努めるという前提だと思いますが、実態としては経済のカンフル剤が必要だったのでしょう。リーマン・ショック直後、巨額のハコモノ投資を行い、一時は先進国から「さすが、中国」という感嘆の声すら上がったわけですが、今となってはその巨額の投資が不動産問題の引き金を引いた形となりました。
その間、中国は外交と内政で二つの重要な役割がかみ合わず、何かちぐはぐな形で展開してきました。ウイグルなどでの民族問題は厳しく取り締まり、その実態のニュースは外に漏れ出てこないことも多々ありそうです。香港の民主化も実質的に支配権を維持し、自由にはさせないという明白なシグナルを出しています。南沙の海上空港建設問題は主要先進国が名指しで非難する中、どこ吹く風でその計画を進めています。このあたりは強気の中国であります。
内政を見るとこれも見方によっては強気とも取れるのですが、私は弱気が故の取り締まり強化ではないかと考えています。反腐敗闘争と題した一連の流れは勝つゲームではなく、負けないようなディフェンスのゲームにしか見えません。
7月22日の日経電子版にはこのようなくだりがあります。「共産党機関紙、人民日報の公式ブログは最近、『“虎たたき”は緩んだのか?』」と題した評論を載せた。党中央規律検査委員会による腐敗摘発のペースが遅くなっていると感じる人が多いとの指摘に『2014年と15年の上半期の摘発人数は同じだ』と反論し、反腐敗の手綱を緩めてはいないと訴える内容だ」。
この文面を素直に読めば体制を維持するために大物を含む一定数の戦勝品を国民に見せつけることで示威を維持していると感じます。この流れは習近平体制が強化され、国家がエキストリームな形になればなるほどその維持は困難になるという歴史の流れに即しています。あの毛沢東国家主席ですらその権力のピークとなった文化大革命期はわずか10年しか持ちませんでした。
周永康氏が先月、無期懲役となりましたが、氏が支配していたのは国の警察、司法、武装警察であります。習氏は正に警察、軍部を直接の支配下に置こうと企てていますが、私にはそれが成功しているようには見えません。むしろ、軍部が軍部の色を見せるような感すらあります。国家を支配するには自国の軍部を完全掌握することが最前提であり、何処の国でも大統領なりが軍の指揮権を持つものであります。これに失敗するとクーデターなどが起きやすくなってしまうからです。このゲームはまだ決着がつくようには思えず、習体制としてはここが最大の攻略ポイントとなるのでしょう。
では中国は危険で不安定で今後、大きなリスクを抱える国なのか、といえばそこまで一緒くたにするのは乱暴なように思えます。なぜなら13億という民が経済活動をしている故に経済力が無くなるわけではないということです。そしてこの国の人はマネーが大好きであるという一定の共通点があるのです。
アップルのティム・クックCEOが昨日の決算発表に際して「我々は中国について極めて強気だ。戦略を変えるのはばかげている」とし、中国の景気減速の影響については強気の発言を連発し、「高速通信網の整備によりスマホの利用はさらに拡大する。中間層も増え続け、大きな商機がある」「中国がいずれ米州を抜いて最大の市場になる」(日経電子版)と述べています。ユニクロの柳井社長も中国市場の強気姿勢は崩しておおらず、同社の海外利益の大きなけん引役に育て上げています。
よってそこは見分けていかねばならないのだろうと思います。
こんな中国とどう付き合うのが良いのか、いろいろな意見はあるのだろうと思いますが、私はつかず離れず、でよいのかと思います。双方が重要なパートナーであると認識する必要はありますが、アライアンスにはなれないのでしょう。中国にはもっと時間をかけ、大人になって貰わねばなりません。私の考える先進国とは人口数でもないし、国力でもないし、経済力でもありません。その国の民が成熟し、高い教育レベルを維持し、数ある選択肢から正しい選択をし、きちんとした道徳心を持つことであります。
習近平体制の中国はまだまだ世間をあっと驚かせるようなことをするかもしれません。しかし、腐敗というもぐらたたきを永遠とやり続けポイントを稼ぐより、モグラがいなくなる体制はどうやったらできるのか、そちらにシフトしない限り、この国がエリート国家になるには遠い道のりのような気がします。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月23日付より