イギリスのフィナンシャルタイムズが売りに出ていてどこかのデジタルメディア企業が買収するらしいという噂があり、世界のいくつかのメジャーな企業名が上がっていました。私の知る限り日経はマークされていなかったはずです。日経の電子版をたまたま見ていてポッと上がった「日経が買収」の記事に思わずびっくりしました。
この買収は高く評価しますし、期待したいと思います。
日本の紙メディアはいわゆる高級紙がなくて一般紙、スポーツ紙、専門紙、地方紙などに分かれます。高級紙になり損ねたのが朝日ですがいわゆる知識層が比較的多く読む新聞としては広く知られています。読売はとにかく巨人軍の進撃と渡辺オーナーのチカラ、更には新聞についてくるおまけで販売部数競争を勝ち抜きました。巨人ファンには充実のスポーツ欄と社会面ですが、他の欄はページ数の割に中途半端な感じがします。(読売は社会面を4ページにすべきです。)
産経は元々は東の日経、西の産経というぐらいの経済新聞でした。かつては日本工業新聞と称したわけですが、この新聞社ほど会社のテイストが変わり続けたところはないでしょう。野球のヤクルトを経営したり、フジサンケイグループを組成したりしました。その後、カラー刷り新聞も全国紙ではかなり早い時期に導入しましたが販売数が延び悩み、主婦向けに綺麗な料理の写真を入れて必死の努力をしていたのがやけに印象的でした。今ではご存じのとおり右巻きの雄として知られています。
発行部数世界第3位の毎日新聞や9位の中日/東京新聞を含めて概観すると、購読者層ではサラリーマンは朝日で自営業は読売といったように職業による特性もありますし、西日本で売れる毎日、関東は読売といった地域性(中日/東京新聞も同様)、更には思想的に右の産経、中道右派の読売、中道左派の毎日、左巻きの朝日という色分けもあります。
そんな中で日経新聞は経済の専門誌として1800年代に三井系の新聞としてスタートしていますが、その後すぐに独立、1946年に現在の日本経済新聞となり、テレビ東京の経営にも参画しています。つまり、日経を含め主要紙は主たる民放との関係を築いているのです。
同社の特徴は言わずと知れた「ビジネスマン必読紙」であり、かつて就活をする際には「日経を片手に」が合言葉でした。就職試験の面接対策は日経社説と一面トップ記事について一定の理解と説明が出来ることでありました。(今は変わっているのでしょう。)
その日経のもう一つの特徴は有料電子版への切り替えを2010年に行ったということです。そのころまで海外を含め、メディアのインターネット配信は疑心暗鬼で無料化したところもあるし、記事の一部を無料配信したところもあります。それに対して日経は紙面全部を有料電子化する賭けに出ましたが少なくとも同社の経営的には正しかったようです。経常利益は2009年の61億円の赤字を底に14年には132億円黒字と着実に業績を伸ばしています。
その同社がイギリスのフィナンシャルタイムズ(FT)という歴史ある高級紙をピアソン社から1600億円(8億4400万ポンド)をかけて買収したのは2010年の電子版導入以来の賭けでありましょう。今までも同紙はFTからの記事を頻繁に掲載し、イギリスからの声として記事のテイストに厚みを提供してきました。今後、同紙の記者、編集者が日経とタイアップするならば日経の弱みである海外情報を直接取り込み、記事内容においてウォールストリートジャーナルと対峙する武器を持つことが出来ます。これは日本のメディアとしての快挙であり、暗いニュースが漂っていたマスコミ界に新風を吹き込むことになろうかと思います。
日経が今後、FTという資産を有効に活用する一つの手段として日経の国際化の強力な推進が必要でしょう。同紙の記事はあくまでも国内読者層向けです。ならばNikkei Asian Reviewを強化し、極端には日経と二部構成にしてでもアジア経済の主要紙とするなどの展開が欲しいところです。また、FTに対してアジアからの視点を掲載するなど欧州方面への影響力を出すことも可能になります。
「ペンは剣よりも強し」と言いますが、マスコミの与える政治経済への影響は凄まじいものがあります。本人や会社の意向に対してマスコミがどう描くかで世論を左右することすらできるのです。少なくとも日経はその強い武器を手にするわけですが、武器は使って幾ら、の世界でもあります。使わなければ錆びた鈍器にもなります。
日経の大いなる飛躍に期待したいと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月24日付より