この前の戦争では、国民もマスコミも大半は開戦を支持しました。戦意高揚を煽りました。戦争反対を言う一部の者は、非国民腰抜けと罵られました。日本は国を挙げて戦争の道を進みました。
敗戦後は一転しました。国民もマスコミも、軍部や政治家に騙されたと主張しました。戦前に戦意高揚を煽った同じ口で、戦後は戦争反対を唱えました。つまり、私たちはあの時間違えたのです。
自衛隊も日米安保条約も天皇制も、いずれも戦後は不人気でした。どれもがあの戦争と直結したからです。自衛隊は違憲で日陰者でした。
60年安保改定の時は、13万人(主催者発表で33万人)が国会前で安保反対のデモを行いました。アメリカの戦争に巻き込まれるぞと言って、反米闘争を繰り広げました。
安保条約は改定されましたが、その後50年以上にわたり、自衛隊員の戦死者は一人も出ていません。94年に誕生した自社さ政権で、社会党の村山首相は自衛隊と日米安保条約を認めました。政権をとって責任ある立場に立てば、現実と向き合わざるを得ません。
結果、党としての独自性はなくなり、皮肉なことに政権についた時が社会党退潮の始まりでした。社会党はあの時安保反対で間違え、安保容認で再び間違えました。
今、9割以上の国民が自衛隊の存在を認めています。共産党でさえ、自分たちが政権をとっても自衛隊はすぐには無くさないと言うようになりました。多分、ずっと無くさないでしょう。
これまで反米闘争をさんざん煽ってきましたが、今では志位さんも、「アメリカは日本にとってもっとも大事な国の一つ」と言い出しました。かつての天皇制批判も封印しています。大多数の国民が、天皇を平和の象徴と認めているからです。周囲の状況が変わったのです。共産党も、あの時少し間違えたようです。
民主党は政権をとりましたが、俺たちならこうやるとマニフェストで豪語していたことのほとんどができずに、結局野に下りました。民主党も間違えましたが、あの時「風」を信じて民主党を選択した私たちも間違えました。
自民党だって間違いの連続です。このあいだは新国立競技場で間違えたばかりです。あれだけ反対の多かったPKO法案は、20年かけて国民の支持を得ましたが、アベノミクスと集団的自衛権はまだ結果が出ていません。どうなりますか。
私たちは同じ考えをずっと持ち続けることはできません。時代背景や状況によって、あるいは立場によって、人は自分の意見を変えます。時には、それに自分が反対していたことさえも忘れます。これは仕方がありません。
ただ私が怪訝に思うのは、そうならば、あの時あんなにも激しく声高に反対意見の者を攻撃しなくてもよかったのではないか、と思うことです。
私たちは間違える存在ですが、また同時に間違えたことを忘れる健全な存在でもあります。だから再び三度間違えます。これからも間違えるでしょう。騙されるのではありません。間違えるのです。
天野 信夫
無職