五輪ロゴ問題で考える「素人と専門家の違い」 --- 内藤 忍

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東京オリンピックのロゴ類似問題は、トートバックの盗用問題まで発覚し、最終的に作者の取り下げという形で決着しました。会見などの報道で印象的だったのは、デザインの「専門家」は盗作ではないと主張し、「素人」はパクリだと考える傾向が強かったことです。

今回の騒動に関して、専門家の深津貴之氏が長文の解説記事をネットに掲載しています(写真もこちらのサイトから引用)。

私はデザインの専門家ではありませんから、この記事の見方が正しいかどうかはわかりません。しかし、本件は、専門家と素人の違いはどこにあるのか?という根源的な疑問を提示するきっかけになったと思います。

ネットによって情報収集が容易になって、専門家と素人の垣根は低くなってきたように見えます。しかし、素人がいくら独学で勉強したところで、専門家にはなれない分野も存在します。例えば、ネットで情報収集して勉強しても、弁護士や医者のような専門家として十分な能力を持てるようになるのは、ほとんど不可能です。誰もそんな人に裁判の弁護や手術を頼もうとは思わないでしょう。

しかし、デザインという仕事は法務や医療とは異なり、素人と専門家の違いがわかりにくく、誰でもデザインの優劣を判断できるように思えてしまうのが現実です。特に日本においてはデザインに対する評価が低く、デザインとは見た目の格好よさとかセンスだけのものと思われていることが、今回の騒動が大きくなった理由の1つという説明は納得できます。

一方で、コミュニケーションを設計することがデザインであるということからすれば、デザインを知らない人にも今回のロゴ問題をわかりやすく説明するということもデザイナーとしての専門性の1つと言えます。デザイナーが専門家の立場で「似ていない」と言えば言うほど、身内がかばっている発言に聞こえてしまう。その意味では、専門家として充分な仕事が出来ていなかったとも言えるのです。

デザインで思い出すのは、マネックス証券のロゴです。鳥がくちばしを開けて笑っているような不思議なデザイン。1999年の開業時にインダストリアルデザイナーの松永真さんにお願いして作って頂いた作品ですが、16年経った今でも古臭さを感じません。

実は、1999年に最初に見た時の社内の評判は決して良いものではありませんでした。何だか不気味で、素人がイメージする証券会社のイメージとかけ離れていたからです。しかし、時間と共にロゴに対する評価は高まり、お金と人のつながりを大切にするマネックス証券のシンボルとして、ロゴのデザインが大きな威力を発揮したと思っています。

専門家と素人の垣根は低くなったように思えるけど、2つの間には大きな違いがある。今回の騒動は、専門家の重要性、そして専門家に求められるものについて大きな気づきを与えてくれました。

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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2015年9月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。