韓国の朴槿恵大統領が3日、中国の北京で開催された抗日戦争勝利70周年式典と軍事パレードに出席したことに対して、日本や米国から批判の声が出たことは既に報じられてきたが、朴大統領の70周年式典と軍事パレード参加に不愉快な思いを持ったのは日米両国だけではなく、北朝鮮もかなり神経質となっていた。
▲インタビューに答える韓国外交部の趙兌烈第2次官(2015年9月15日、ウィーンのIAEA第59回総会会場で)
海外中国反体制派メディア「大紀元」(14日付)が米政府系ラジオ・フリー・アジア筋として報じたところによると、北朝鮮当局は中国の軍事パレードを国民がテレビで観ないように受信防止装置を付け、テレビで北京の軍事パレードを観た国民を逮捕したり、罰金を科したという。
「大紀元」によれば、「軍事パレードに関するニュースは国民の間に広がった。韓国の朴槿恵大統領が、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領の近くに並んでいたことに、多くの市民はショックを受けた」という。北側は日頃、「米国の傀儡政権」と批判してきた韓国の朴大統領が習近平主席の傍で軍事パレードを観覧している姿を国民に見せたくなかったのだ。そこでテレビ中継を観ないようにに、受信防止装置を付けたというわけだ。
ちなみに、同式典に参加した北側の崔竜海・朝鮮労働党書記は軍事パレードでは中央から遠い端の方に追いやられ、中国側の要人との会談もなく帰国している。
北は10月10日の労働党創建70周年では軍事パレードを予定しているが、「大紀元」によれば、「中国人民軍の規模と比較して、北の軍事パレードが貧弱に受け取られることを警戒している」というのだ。
朴大統領を招請し、それも大歓迎した中国の習近平主席に対し、北側は快く思っていない。中国と北朝鮮との関係は、金正恩氏が政権を掌握して以来、険悪化してきた。その発端は、中国側が親中派の叔父、張成沢氏との会談の中で、金正恩第1書記を追放し、異母兄弟の金正男氏を担ぎ出す動きに同調したことからといわれている(それを知った金正恩氏は激怒して張氏を処刑した)。
北朝鮮は今月9日、建国記念日を迎えたが、習近平主席の祝電には、両国国民が朝鮮動乱でも共に戦った血で固められた友情という意味で「血盟関係」を誇示する慣例の表現はなく、「両国の健全な発展」を願うといった極めてクールな表現に終始した内容になっていたという。
その文面に不快な思いをした北側の労働新聞は、ロシアのプーチン大統領とキューバのカストロ国家評議会議長からの祝電を一面で紹介する一方、中国の国家元首の祝電を2面扱いで掲載するなど、不快感をあらわにしているほどだ。
中朝関係を見てきた韓半島ウォッチャーは久しく、「中国はいざとなれば北朝鮮を支援する」と見てきたが、両国は目下、これまで体験したことがない深刻な緊張関係にあると言わざるを得ない。
南北両国が一触即発の状況にあった先月、北側が板門店で開催された南北高官会議で地雷問題で異例の「遺憾表明」をし、南北間の軍事衝突を回避した。その唐突な展開は、北側が中国との関係改善を断念し、手っ取り早く経済支援が期待できる韓国との関係改善に乗り出すことを決めた結果ではないか、と推測されてきた。
北の核問題の6カ国協議では、中国はホスト国として北を宥める役割を演じ、時には圧力を行使してきた。しかし、中国の対北外交が今後、その実効力を失うのではないか。具体的には、北は労働党創建70周年前後に中国の反発を無視してミサイル実験、核実験などを強行する可能性が排除できなくなってきたわけだ。
興味深い点は、中朝関係が最悪な状況となってきたことから、中国に代わって韓国が北の非核化に指導力を発揮できるチャンスが巡ってきたことだ。任期後半に入った朴大統領の対北非核化への入れ込みはそのことを鮮明に裏付けている。ただし、北が核兵器を放棄する考えがない以上、その成果は余り期待できない。
以下、ウィーンの本部で開催中の国際原子力機関(IAEA)第59回総会に韓国首席代表として参加した同国外交部の趙兌烈第2次官は15日、当方とのインタビューに応じた。同次官は、「北朝鮮は過去、戦略的挑発を繰り返してきたから、来月10日の労働党創建70周年前後にミサイル発射だけではなく、核実験を実施する可能性は排除できない。わが国としてはIAEAを含む国際社会と連携し、6カ国協議加盟国と連絡を密にしているところだ」と述べた。
韓国政府はミサイル発射を警戒する一方、北の核実験については「兆候が見られない」という理由から否定的だった。韓国高官が北の核実験の可能性を示唆したのは今回初めて。
朴大統領が北の非核化問題でここにきてイニシアチブを取り出したことに対し、趙次官は、「北の核問題はわが国だけの議題ではない。中国との首脳会談、米韓のサミット会談でも常に最優先課題として扱われていることだ」と強調、韓国側が北の核問題で中国に代わって、主導的な役割を演じる考えがある、といった推測を否定した。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年9月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。