資産分類と権限移譲

資産の分類は、資産運用管理のガバナンスの問題である。なぜなら、資産の分類は、資産配分(アセットアロケーション)の責任範囲の境界を規定するからである。


資産運用というものは、資産配分から個別の銘柄選択まで、一連の階層構造をもった意思決定の連鎖である。そして、ある階層から下の意思決定は、年金基金等の投資家から運用会社へ委譲される。逆にいえば、ある階層から上の意思決定は、年金基金等の内部のガバナンスの問題だということである。

例をとろう。債券の運用では、ブロードマンデイト(広めの委託範囲)などと呼ばれる考え方がある。これは、運用会社の責任範囲を大きくする運用委託形態のことである。

債券では、投資範囲の適格性についての制約が多い。代表例は、その名も投資適格社債である。普通は、BBB以上の格付をもつ社債と定義されるものだ。多くの投資家は、投資非適格社債(ハイイールド債。定義上、BB以下の格付をもつ社債)の組み入れ比率に制限をつけている。つまり、投資家内部のガバナンスによって、ハイイールドを独立した資産として分類し、投資可能額を管理しているのである。

ところが、現実の投資の機会としては、ハイイールドと投資適格社債との間の相対価格変動に、大きな投資妙味がある場合が多い。一般に、投資家内部の意思決定は、市場環境に機敏に対応できるほどには、柔軟には設計されていない。もちろん、敢えて機敏な意思決定の可能性を排除しているという面もあろう。それも、一つのガバナンスの設計哲学である。故に、投資家の意思決定としては、ハイイールドの比率を環境に合わせて変えることは難しく、投資の機会を捉えにくい。

そこで、工夫されたのが、ブロードマンデイトなどと呼ばれる戦略である。これらは、一定の条件のなかで、運用会社の判断として、本来的な投資対象として含まれない対象、代表的には、ハイイールドへの組入れを決めるものである。つまり、権限委譲の問題を少し工夫することで、ハイイールドの投資機会を捉えようとする努力なのである。

ガバナンスが資産運用にとって重要だということの本当の意味は、投資家と運用会社との間の権限委譲(マンデイト)を工夫することで、投資の機会をより巧みに捉えようとする絶えざる努力の重要性である。もちろん、投資家の内部の組織的な権限委譲にも、絶えざる工夫の努力が必要なのである。そもそも、組織とは権限委譲の体系のことである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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