先日、翁長雄志沖縄県知事が国連の人権理事会で名護市辺野古に移設を進める米軍基地について強い懸念を表明しました。日本政府はこの夏、工事を一か月間止め、菅官房長官自らがその先頭に立ち、翁長知事と会談を重ねましたが、平行線のままで終わり、政府と沖縄県知事の確執は決定的な状態になっています。
非常に悩ましく思います。
在日米軍基地は北海道から沖縄まで各地に存在し、東京周辺でも横須賀、座間、立川、更には麻布ヘリポートなどというものもあり、見方によっては沖縄ばかりに集中しているとも言いがたいところもあります。東アジアに於ける日本の国防を見ると対ロシア、朝鮮半島、中国がその防御対象となりますが、特に東シナ海は中国海軍が太平洋に出ようとするのを防ぐ重要な生命線となります。更に中国は東シナ海の微妙な位置でガス田の開発を進め、尖閣についても最近は話題になりませんが、相変わらず高いレベルの「来船」を保っています。
つまり、日本の自衛、国防という観点からすると沖縄は戦略的位置であることに疑う余地はありません。国防の役割を他県に移しにくいという宿命がそこにあります。そしてその防衛は日米地位協定に基づき、米軍と共に安全保障を担うことになります。
翁長知事の主張はなぜ、沖縄だけが苦しめられなくてはいけないのか、ということでありますが、日本政府も米軍も沖縄に嫌がらせをしているわけではなく、重要な戦略的要素がある故であります。そんな中、翁長知事が国連に先立って行われたシンポジウムでの発言が気になります。「沖縄が独自の言語、文化を持つ独立国だった点を説明し、1879年に日本の一部となった琉球処分や、戦後の米軍基地建設など、『自己決定権が侵害された』歴史への理解を求めた」(毎日新聞)の一説であります。
翁長知事のこの発言はいわゆる民族問題を明白に提示するものであり、民族的差別観を持って日本国政府との対峙を進める戦略のようにも思えます。沖縄を「琉球民族」と称する説もありますが、学術的には明白になっていないと理解しています。それをあえて区別化し、先住民的地位の主張をするとなるとほぼ単一民族日本に於いて歴史上あまり例をみない問題に展開することになります。
日本で民族問題が起きるとそれに悩む中国はほくそ笑むし、その不和に乗じて中国が沖縄に接近することは大いにあり得るでしょう。事実、知事は4月に李克強首相と面談しています。その点からすれば翁長知事の発言は極めて慎重に検討、対応する必要があります。カナダやアメリカでは先住民の権利を尊重する姿勢が高じて今では「腫れ物に触る」ような状態になっていることは正直、国家の統一感に極めて異質な空気を作り上げています。
逆説的な論理になりますが、沖縄を満足させるには米軍が退去し、日本の自衛隊ががっちりそこを抑え、守るというシナリオになりますが本当にそれを望んでいるのでしょうか?それで本当に守れるのでしょうか?
知事の民族的地位の利用はふさわしくないアプローチであるとともに歴史に遺恨を残します。知事は徹底抗戦を考えているようですが、法的に勝ち取るのはなかなか難しいように思えます。米軍で悩んでいるのは沖縄の人たちだけではありません。そこは理解して頂かねばならないでしょう。
もう一つ、不動産を専門とする者として一言付け加えると「住むところは個人の選択」であります。これを言うと10中8,9の方はなんで俺が動かなくてはならないのだ、とおっしゃると思います。北米的なドライな見方と言われるかもしれませんが、嫌なところで我慢するなら新天地に動くのはその人の人生をよりハッピーにしないでしょうか?
非常に難しいテーマでありますが、対話を通じて少しずつでも前進していくことが重要でしょう。政府と沖縄の間に立つ裁定人の選定というアプローチも考えた方がよさそうです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月30日付より