不思議なファーストフード業界の価格戦略

岡本 裕明

またマクドナルドが矢面に立たされています。同社の昼セット割引を廃止すると発表した途端、強い反発の声があちらこちらから出ているのです。正直、お粗末です。

同社は午前10時半から午後2時まで昼セットと称して通常より百数十円安い価格で提供していました。マクドナルドの昼セットを販売していた時間帯の売上は全営業時間帯の中で極めて大きな比重を占めています。よってこの時間帯のお客様を如何に上手に扱うかはマクドナルドがどういう経営状況にあろうが最もセンシティブに、そして上手に乗り切らねばならないところであります。

ところがこれに代わるセット価格として500円の新商品を投入するということになっています。今まで主に450-550円の昼セットだったから平均すれば500円だろうという発想なのでしょうか?だとすれば、「商人」の教えをもう一度乞うべきでしょう。

人は商品価格が一定レンジの場合、その最低価格にのみ記憶をとどめます。よって、いったんマインドセットされた最低価格はよほどのことがない限り価格を動かすことはできません。そうでなければその商品をやめてしまうしかないのです。多くの昼マックファンは450円の記憶のみであって(私は550円のビックマックのセットは食べないと言うのです)その人たちから見れば50円の値上げになってしまいます。

もう一つは価格構成をいじりすぎて顧客がついていけなくなっています。店側は経営効率を考えての価格戦略とそのメニューなのですが、たまにしかいかない顧客にはメニューをみても何が何だかわからないというのがファーストフード店の特徴なのです。しかも後ろに客がいるだけでなく、正面のカウンター越しに「いらっしゃいませ、お決まりなりましたらお声をかけてください」と若い店員ににっこりと見つめられると私のようにか細い性格の人間はメニューをじっくり堪能、理解することなく「妥協の注文」をしてしまうのです。そして後で「しまった!こっちにこんなうまそうなのがあった」と思うのです。残念ながら私は「孤独のグルメ」の井之頭五郎さんのように二人前はいただけないのです。

実はこんなメニュー戦略と価格戦略で顧客を悩ませているのはマクドナルドだけではありません。

牛丼三社は9月末から10月初めにかけて一斉に値下げセールをしていました。一部では牛丼200円台がまた復活していました。こんなことをするので牛丼の値段がいくらなのか、もはや頭のインプットの書き換えが出来なくなるのです。

一般の人の多くはファーストフードやコンビニ、カフェ、なじみの店の価格帯やセットメニュー構成は頭に入っています。その上で歩きながら「今日の昼はあそこのあれが○○円だからそこにする」という組み立てをしているものです。ところがこのように価格はいじるわ、主力メニューはいじるわ、をすると顧客がついていけないという点をどの会社も忘れている気がします。

私はチェーン店やファミレスの店に入り、注文を終えるとそれからメニューをじっくり観察します。この店の売りは何か、価格帯は、そしてうまそうに見えるのはどれか、などメニューとの一人対話は実に奥深いのです。これが次に来た時につなげる重要な客とのコミュニケーション手段だということに気が付いてもらいたいのです。

今日のタイトルは「不思議なファーストフード業界の価格戦略」としました。それは外から見ている私から言わせれば、ぶっ倒れるほど我慢してどうにもならなくなった時に最後の選択肢としてボンと値上げする稚拙さだけが目につくのです。「努力してきましたが…」という能書きは理由になりません。上手な経営とは顧客との対話の中でほんの少しずつ値上げを継続して健全な利潤を取ることです。

ましてやマクドナルドのサラ カサノバさんにそんな日本の値上げの繊細さなど知る由はありません。なぜなら北米は企業側の値上げへの忍耐力はなく、価格を上げる時には上げ、再三の値上げに慣れた顧客は「あぁ、またか」というだけですから。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月10日付より