大阪の選挙が近づいてきた。なんだかんだあっても、まだまだ橋下維新の動向、これに最初に目が行く。市長選は新人戦になる見込みだが、知事選は松井知事が再出馬である。そして一度は破れた「大阪都」を公約に入れるとのこと。(橋下維新は以下「維新」と略)
今年5月の大阪市の住民投票はなんだったんだ、という声もあるが、維新もやっと政党らしくなった、というのがわたしの感想。
橋下氏が知事になった当初は、念仏のように道州制を唱えていたのだが、それが関西広域連合のクラブ活動に変わり、脱原発の寄り道を経て「大阪都」構想。かつてのブレーン側からは、アイデアの食い散らしだ、偏食だ、との非難は強いが、負けてなお再度「大阪都」に固執するのは、評価に値する。
「大阪都以外、他には何もないからじゃないか!」
と批判する老舗政党だって、何かがあるというわけでもない。
わたしといえば維新のことは嫌いでも「大阪都」は嫌いではない(ただしネーミングはケッタイだと思うが)。住民サービスの(直接)自治体は小さくし、国と交渉する(権限)自治体は大きく一本化する、ということだと、大づかみに諒解しているからだ。
それにしても大阪市は大きい。20以上の区があるのだが、全部すらすら言えて、メモ用紙に略図が描けるひとがどれだけいるだろう。市長はさすがにできるだろう。そうあってほしいと思う。しかし市議あたりになると、怪しいのではなかろうか。
市議が得意なのは、自分の選挙地盤である。この土地勘だったら余人の追従を許さない。許すようだったら選挙に勝てっこない。
一方、政令市の市長はそんな細かいことを知っているわけがない。千代田区の地理の方が得意かもしれない。しかし知事と二人で永田町に精通していても、仕方がないではないか。
さて本日のお題は防災である。災害対策基本法では、避難勧告や避難指示は、おおむね市町村長がすることになっている。東京23区の場合は区長が担う。大阪市が分解されて区になった場合も同様だったろう。防災権限は細分化されることになったのである。
市町村合併が極度に進行して、自治体の首長がとんでもなく広い範囲を受け持たなければならなくなった昨今、逆行するようだが、この細分化は防災にも有利である。
発するのは首長であっても、実際に勧告や指示を決めるのは首長ではないだろう。気象庁や国土庁、府県の部局とも連絡をとる役所役場の担当者であろうかと思う。しかし首長が該当する場所を知っているかどうかは重要である。ささいなことでも担当者のコンディションを左右しかねない。
担当者が事前であれ事後であれ説明を上げるとき、首長に対して、地名、地形の説明からはじめなければならない場合と、それが省略可能な場合を比べれば、その負担の差は明らかだ。
災害の警告に空振りはつきものである。しかし見逃しはもっと怖い。この加減がむつかしい。そのあたりはやはり首長の人柄や、地元への愛着にも関わってくるのではなかろうか。
ところでフランスの県の単位はとても小さい。その昔の
「領主が、その日の内に馬で行って戻れる範囲」
がそのまま受け継がれていると聞いたことがあるが、本当かどうかは知らない。しかし当たらずといえども遠からず。だいたいその程度の大きさである。知事は仕事さえすれば不在地主でもいいくらいだが、防災にはこのフランスの県のような(または市議のような)発想が欲しい。
2015/10/12
若井 朝彦(書籍編集)