資産配分よりも資産分類を見直さなくては

森本 紀行

資産の配分の前に、資産の分類を考え直さないといけない。なぜなら、資産を国別に分けることは、株式においては、グローバル化により、債券においては、金融政策の協調により、意味を失ってきているからであるし、資産の多様化が進み、従来の資産種類間の垣根がなくなってきているからである。


今でも、資産分類の重要な軸は、資本構成における位置である。株式と債券というのは、基本的な資産分類であるが、この区分は、企業の貸借対照表の右側の負債・資本勘定の構成(資本構成という)における分類である。一般的に、資産とは、別な主体の負債のこと(例をあげれば、国債という「資産」は、国の「負債」)だから、資産の区分は同時に債務の区分であるわけだ。

投資とは、本来的に、事業(事業そのもの、もしくは事業を営む企業体)から創出されるキャッシュフローの分配を受けることである。資本構成というのは、実は、その分配を受ける権利の優先順位をいうのである。

事業キャッシュフローは、経済環境等の要因により、変動する。しばしば大きく変動する。キャッシュフローが減少したとしても、資本構成の上位の融資や社債の価値は、それほど大きな影響を受けない。しかし、最下位の株式の価値は大きく変動する。なぜなら、減少の負担は全て、まずは、株式へ寄せられてしまうからである。

いいかえれば、株式は、上位の債権者の権利を保全するためのクッションのような役割になってしまうのだ。株式投資が高リスクであるということの本来的な意味は、ここにある。

ところで、事業キャッシュフロー分配の優先劣後関係は、融資や社債と株式というように、二つに構成するのではなく、もっと多くの階層に構成してもいいのである。つまり、資本構成による資産の分類は、もっと多様であり得るのである

また、資産は、事業キャッシュフローの源泉によっても分類できる。伝統的な国別や産業別の分類である。しかし、資産は、事業キャッシュフローの性格によっても、分類できる。事業キャッシュフローの性格といえば、唐突だが、例えば、金鉱とスコップの区別は重要である。事業の中核そのものと、その中核事業に付随する事業の区別である。

金鉱を掘るという事業のリスクと、金鉱を掘る人たちに様々なサービスを提供する事業のリスクとの間には、本質的な差がある。基礎部分にある産業と、そこから順次派生する産業、というような産業連関に基づく資産の分類である。

この議論の先に、中国の成長そのものよりも、中国の成長から恩恵を受ける地域や産業・企業のほうが、リスクとリターンの関係がいいのではないか、という論点がある。

これは、中国やエマージングの成長というテーマが、一つの資産クラスだということである。同様に、再生可能エネルギーという投資テーマも、一つの資産クラスである。こうして、産業連関という軸に続いて、投資テーマによる資産部類という軸も作れる。

資産の分類など、どうとでもなるのである。要は、資産配分の都合によって、資産の分類を工夫すればいいのである。資産分類を固定していては、よりよい資産配分など、できはしないのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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