企業の資金調達の方法として、重要性を増しているのがアセットファイナンスである。要は、資産を売却することで資金調達する手法である。しかし、遊休・不稼動資産の単純売却は、当然至極のことであるから、アセットファイナンスとはいわない。
アセットファイナンスは、企業経営に必要な資産を売却することで、資金調達する方法である。必要だから、売却しても、賃料・使用料を支払って、使い続ける。そのような特殊な売却だから、よく流動化という専門用語が使われる。
流動化できる資産は限られる。少なくとも、特定企業の特定事業に固有な資産、その企業固有の事業の中核を形成するような資産は、当然であるが、流動化の対象にすべきでもないし、するはずもないし、また、できもしないのである。
流動化できるのは、産業全体に共通する要素をもった一般的な資産である。流動化できるものの代表例が自社保有の本社ビルなどのオフィスビル、流動化できないものの代表例が工場、この対比で、概ね、ご理解いただけると思う。
オフィスビルの他、流動化の対象になるものの例としては、物流施設、運輸施設、エネルギー関連施設などがある。これらの流動化された資産は、企業にとって必要不可欠な資産だから、当然に、賃料・使用料の安定的な収入があるので、優良な投資対象になる。
限界事例としては、在庫資産がある。製品在庫は、企業固有のもので、企業固有の販路にのせないと売れないのだから、流動化の対象にはなり得ない。しかし、原料在庫は、一般的な素材だから、流動化し得る。例えば、森林は、紙パルプの企業にとって、自社で所有する必要のない在庫資源であるから、現に、独立した投資対象になっている。
同様に、多くの第一次資源は、流動化により、独立した投資対象に構成できる。不動産等は異なり、定期的な資産売却収益が、安定的な投資収益になるのである。このようにして流動化された資産は、リアルアセット(実物資産)と呼ばれる。
さて、アセットファイナンスの重要の論点は何か。それは、企業の経営効率である。企業にとっては、アセットファイナンスは、資産を保有するために資金調達することと、経済効果は同じであるが、アセットファイナンスは、貸借対照表の外の調達になるのだから、総資産利益率、自己資本比率、自己資本利益率等の指標は異なってくるのである。
もっと重要なことは、企業統治の論点である。アセットファイナスの徹底は、企業経営者に、保有すべき必要最低限の資産とは何かを考えさせることになる。その極限に切りつめられた資産にこそ、企業の真の競争力があり、その真の競争力が化体した最少資産で経営するからこそ、経営効率が最大化することは、自明であろう。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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