ゆうちょ銀行は、銀行としての価値はなくても、投資家としてなら、価値を生み得るかもしれない。実際、ゆうちょ銀行自身も、日本最大級の機関投資家として、運用の多様化を推進して、安定的投資収益を確保することを目標にしている。
融資と投資との差は、私的な関係性に基づくかどうかということに求められる。融資であれば、銀行は、融資先の債務者との間に、情報が対称的となるような私的関係性を構築しなければならないが、その関係性の構築には、長い時間がかかるし、その関係性ができない限り、融資業務はできないわけである。
それに対して、投資というのは、公開資本市場のなかから、投資対象を物色する行為だから、投資対象との間に私的関係性を構築する必要がない。故に、機関投資家としての高度な投資業務ならば、ゆうちょ銀行にとっても、人的資源の適切な配置によって運用の態勢を整えさえすれば、参入可能な領域なのだ。
ただし、元本保証のある貯金という形態で資金を調達して、それを価格変動のある対象に投資するというのは、非常に難しいことである。機関投資家としてのゆうちょ銀行というのは、ゆうちょ銀行の貯金が、銀行の預金と性格が異なり、やや長期的性格を帯びた貯蓄性の強いものである限りにおいてのみ、成り立ち得ることだと思われる。
理論的には、負債特性に応じた高度なリスク管理の手法さえ確立できれば、機関投資家としてのゆうちょ銀行というのは、固有の付加価値を安定的に生み出し得るであろう。もちろん、投資対象の価格変動を吸収できるだけの自己資本の厚みが必要になるわけだが。
それにしても、200兆円を超える規模は、大きすぎて、投資家としての行動制約になる可能性が高い。適正規模は運用能力の関数だから、一概にいえないが、適当な感覚として、50兆円くらいが落ち着きのいいところではないのか。
ところが、ゆうちょ銀行は、中期経営計画のなかで、3兆円の貯金増額を目指すとしている。なぜに、規模の拡大が必要と考えているのか、よく理解できないところである。
また、ゆうちょ銀行は、投資対象の多様化を進めるとしながらも、国債を中心とする方針を変えてはいない。しかし、貯金を集めて、国債に投資しても、機関投資家としての付加価値創造はできるはずもない。課題は、国債中心の運用からの脱却である。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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