具体例で考えるパチンコVW問題の責任論 --- 宇佐美 典也

ども宇佐美です。

しつこくパチンコのお話です。
パチンコVW問題に関しては、木曽崇氏、やまもといちろう氏なども取り上げてくださったこともあって、問題の構造・大きさについては大分世間に知られるようになって来たと思います。

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20151215-00052441/

そこで今回は抽象論ではなく「実際にどのようなことが行われているのか」という具体的な例をあげて、パチンコメーカー、ホール、警察、保通協それぞれの責任論を考えていきたいと思います。で、結論から申しますと、私はこの問題の責任は

 【パチンコメーカー:90%、ホール:5% 、警察:5%、保通協:0%】

程度だと思っています。それが私が「パチンコVW問題」とこの問題を呼んでいる理由でもあるのですが。さてでは具体論に入っていきましょう。

まず仮に、パチンコメーカーA社が「B物語」という遊技機を新たに開発したとしましょう。
これまで散々述べたようにパチンコメーカーは開発した遊技機を大量生産して市場で売るには「型式検定試験」を通過する必要があります。この試験の詳細は「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」で警察庁が定めており、それに従って各都道府県警察がそれぞれ検定試験を実施することになっています。しかしながら同じ試験を各都道府県警が別々にやるのは非合理的ですから*、実際は技術的な部分に関しては全国の都道府県警が保安通信協会(通称「保通協」)というところに共通して委託しています。

  *なお非技術的な部分に関しては各都道府県が個別に審査する

そこでA社は新遊技機「B物語」に関して保通協に依頼して性能試験をしてもらうことにしました。この時A社は「B物語」という遊技機に関して以下のような釘の配置図を示して、この通りに調整して試験の申請をします。(以下の図では遊技機が特定されないように一部隠しております)釘の角度の基本は「12時方向に5度」傾いており、配置図で指定された特定の釘に関しては10度以内の範囲で個別に傾けて申請します。こうすれば警察の定める「おおむね垂直」というルールを満たしていることになります。これがいわゆる「検定釘」というものです。

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さてこの検定釘どおりに打つと、この遊技機の性能はどう出るでしょうか?私の手元に実験してみた結果があるのでその概要を示すと以下の通りです。

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【100球当たりの各入賞口への入賞数など】
 ①中央入賞口への入賞 :3.43球
 ②一般入賞口への入賞数:4.67球
 ③ ①による払い出し :3×3.43=10.29球
 ④ ②による払い出し :10×4.67=46.7球
 ⑤ 通常時の払い出し :10.29+46.7≒57球
 ⑥ 推定役物比率   :(95%-57%)/95%=40%
              *還元率95%を想定
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見ての通りこの「B物語」という遊技機は検定段階では通常時の払い戻しがが57%にも上るわけですから、役物比率(獲得することができる遊技球の数のうち役物の作動によるものの割合)が40%程度(還元率95%を想定)という比較的ギャンブル性が低い機械となっています。

 「これならば安心だ。釘もおおむね垂直だし、役物比率も低いし安心して市場に出せる。」

と保通協は検定試験を通します。

パチンコメーカーはこうして保通協の試験を突破した後に、各都道府県警察をまわり「この機械は保通協の試験を突破した安心安全な機械です」と説明して、今度は警察の非技術的な試験(例えば演出が淫らではないか、とか、差別表現が含まれてないか、とか)を受けて検定を取得します。遊技機の検定が取得されると以下のように各都道府県警察から告示がなされます。(以下は島根県警の例)

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検定を取得したからには当然A社は「B物語」に関して検定と同様の釘の配置をして、ホールに機械を出荷しなければなりません。そうでないと遊技機検定規則第11条に基づいて検定の取り消しをされてしまいます。検定取り消しをされてしまうとメーカーは事業継続が危ぶまれます。そんなわけで警察は「まさかメーカーが不正をすることはないだろう」と安心しきっていました。A社は警察のこうした気のゆるみにつけ込む形で、検定時から大きくB物語の釘をいじって、ギャンブル性を大きく上げてホールに遊技機を出荷しました。これがいわゆる「納入釘」と言われるものです。

さてこのB物語がパチンコホールに納入釘状態で届くと、今度は各ホールが支所の警察に風営法第二十条二項に基づく「認定」と呼ばれる手続きの申請します。この時点での「認定」の効力は「各パチンコホールは、この遊技機をこのままの状態でおいて営業しても合法ですよ」と公式に認めるものです。ここで警察はB物語に関して全国で「納入釘」状態の遊技機を「検定機と同一の物である」と書類等の情報で誤認して認定してしまいました。警察としては「検定取り消しになれば大問題なのだから、まさかパチンコメーカーが不正をすることは無いだろう」と信頼しすぎて「納入釘」に合法営業の保証を誤って与えてしまったわけです。一言で言えば警察はパチンコメーカーを信用しすぎてに上手いこと騙されてしまったわけですね。

こうして認定を受けた後に各パチンコホールは警察にバレないように若干釘をいじくって「営業釘」と呼ばれる状態でホールは営業を行います。もちろんこれは違法でホールの責任です。こうした度重なる釘調整の結果どの程度性能が変わるのかというと、先日とあるホールでB物語を3000球ほど実射した結果が以下の通りでした。

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【100球当たりの各入賞口への入賞数など】
 ①中央入賞口への入賞 :5.3球
 ②一般入賞口への入賞数:0球

 ③ ①による払い出し :3×5.3=15.9球
 ④ ②による払い出し :10×0=0球
 ⑤ 通常時の払い出し :15.9+0≒16球
 ⑥ 推定役物比率   :(95%-16%)/95%≒83.2%

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いや何かもう笑いが止まりませんよね。

試験時には「通常時でも100球打って57球返ってくる」はずの遊技機が「通常時では100球打って16球しか返ってこない」という状況に不正改造されているわけですから。そして役物比率83%というのは立派に風営法の定める射幸性基準の上限(70%)を違反しており、こうした遊技機を置いて営業したら本来は営業停止の対象です。なお「納入釘」からさらにホールが営業用にギャンブル性を高める改造をする「営業釘」ですが、この状況においてホールは「営業釘」を自粛して「納入釘」状態に釘を是正しているようで、上記データは「納入釘」状態のデータなのかもしれません。

実際のところ「納入釘」段階でどの程度改造がなされているかどうかは、パチンコメーカーの社内にしか証拠が無く、残念ながら刑事告発でもしないかぎりその正確な釘配置は知るすべがありません。
ただ現在マルハンあたりで実射できるものが「納入釘」と呼ばれる状態のものではないかと考えられます。

とはいえ「納入釘」を用いて営業したところで、実機を打った結果が上記のように役物比率に違反していればこれはやはり違法営業でこれは営業停止処分の対象なのですが、警察は現在これを黙認しています。というか黙認せざるを得ません。

先程述べた通り、B物語に関しては警察としては一度「納入釘」の状態で遊技機を「認定」をして「これは合法ですね。安心して営業してください。」とホールに対してハンコを押してしまった以上、いきなり取り締まりをすることは難しい状態にあります。ここは完全に警察の落ち度ですからね。もちろん誤った情報に基づいて認定したのですから、本気になればいつでも各ホールに与えた認定を取り消すことが出来るわけですが、それではホールも気の毒というところがあります。なので警察は「期限を設けて撤去しろ」ということをホールに要望しているわけです。

さて以上の話をまとめてそれぞれの責任論を考えていきましょう。

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①A社は新型遊技機「B物語」を開発し、保通協に検査してもらい検定試験を突破した。その際には「検定釘」と呼ばれる釘配置で役物比率は40%程度と低く合法な水準になっている。
 ➡×保通協の責任

②A社はこうして検定試験を突破した後「B物語」の釘を大幅に調整してギャンブル性を上げて「納入釘」と呼ばれる状態で出荷する。現在市中で営業に用いられている遊技機はこの「納入釘」の状態で提供されていると考えられ、すでにこの時点で役物比率に違反している可能性が高い。(実機ベースで83%)
 ➡◎パチンコメーカーの責任
 ➡処分:遊技機検定規則11条2項に則って「検定の取り消し」を受ける

③警察は「納入釘」状態の「B物語」がホールに設置される際に「これは合法水準である」と誤って認定してしまった。
 ➡○警察の責任
 ➡対応1:遊技機検定規則11条2項に則って「検定の取り消し」を行う
 ➡対応2:ホールに対してはなるべく早くB物語を撤去するように指導

④一部ホールはB物語の釘を「納入釘」状態から更にギャンブル性を高める「営業釘」状態に調整して営業を行っている。
 ➡△ホールの責任
 ➡対応:当座はB物語を納入釘状態に戻し、なるべく早く違法機を撤去するよう努力する

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まず①の「B物語」の試験事務に関して落ち度があれば、これは保通協の責任なのですが、これに関しては彼らには全く責任がありません。上で示した通りB物語の遊技くぎの調整は全て「概ね垂直」と判断される10度以内に納まっており、その通りに打って検定試験を突破する値が出ました。改めて言いますが保通協の責任はゼロです。

続いて②のA社が「B物語」の出荷にあたって釘を「納入釘」と呼ばれる状態に調整し直している問題ですが、これは完全にパチンコメーカーたるA社の責任です。しかも悪意でやっているわけですから言い訳のしようがありません。これに関しては遊技機検定規則の11条2項において検定の取り消し、というペナルティがありますから、これが課されるべきです。同情の余地は全くありません。

続いて③の「警察が納入釘状態のB物語を誤って認定してしまった」という問題ですが、これは警察の落ち度です。この原因は警察がパチンコメーカーを信頼しすぎたことにありますから、警察は「一罰百戒」で二度とこのようなことが起きないようにパチンコメーカーの検定を取り消す責任があります。その上で違法機であるB物語をなるべく早く市場から撤去するようホールに指導することも必要になります。

続いて④の「パチンコホールがB物語の釘を、納入段階から更につついて営業用の釘にしてギャンブル性を上げた」という問題ですが、これはホールの責任です。その結果として、役物比率違反の遊技機を設置して営業しているようなら、警察から営業停止処分を受けても仕方ありません。ただ「納入釘レベルを合法」と認めてしまったのは警察の落ち度ですから、ホールに関しては当座は「B物語の釘を納入釘レベルに戻す」ということが求められる範囲の義務でしょう。その上でなるべく早く違法機を撤去する努力をする義務があります。

ということで長々と書いてきましたが、この問題どう考えても”一番”悪いのはパチンコメーカー、というのが私の結論です。「みんな悪い」っていうのは一種のごまかしだと考えています。

そんなわけで一刻も早くパチンコメーカーの検定取り消し処分がなされることを期待しております。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2015年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。