今年ほど国民的音楽番組っぽい紅白歌合戦はない

常見 陽平

tsunemi151227
年末である。今年もNHK紅白歌合戦が迫ってきた。楽しみで仕方がない。矢沢永吉や中島みゆき、サザン・オールスターズなどいかにも紅白に出ない人の出演、昨年のような海外から中森明菜出演などの夢企画は少なめだけど、今年は楽しめるラインナップなのではないかと思っている。そして、これぞ国民的音楽番組なのではないかと思ったのだ、今の音楽シーンにとって。

最初に今年の紅白の見どころについて、一音楽ファンとして語らせて頂こう。中年ロッカー、そしてプロレス者はこの布陣にNHKの本気と、気迫、さらに言えば狂気のようなものを感じるからだ。今年の紅白は闘いである。なんせ、トリのマッチさん(さん付けで表記しないといけない)と聖子ちゃん(もう中高年だが、安室奈美恵がアムロちゃんであるのと一緒で聖子ちゃんは、聖子ちゃんなのだ)の対決に目が行く。マッチさんは「ギンギラギンにさりげなく」、聖子ちゃんは「赤いスイートピー」で勝負してきた。80年代アイドル頂上決戦である。昔の格闘技で言うならば、これはヒョードル対ミルコなのだ。マッチさんは昨年、特別出演した中森明菜を背負っている。聖子ちゃん派対明菜派という、80年代の女性アイドル歌手イデオロギー闘争はここで、時を経て代理戦争が行われることになる。聖子ちゃんは昨年の明菜、そして今年のマッチさん、さらにはトリという重責と闘わなくてはならない。だから「赤いスイートピー」という最終鬼畜兵器を紅白に投下することになった。

さらに追い打ちをかけるように、白組の、そして番組のトップバッターは郷ひろみで「2億4000万の瞳」である。かつての交際相手であることは言うまでもない(若い人は知らないか)。聖子ちゃんが破局会見をしたのは1985年の1月だ。約30年の時を経て、お互い数々の恋愛の紆余曲折を経て、再度対決である。このカードを組んだNHKに決意を感じるのである。

このトップバッター郷ひろみ、トリにマッチさんという布陣は、現状、ジャニーズ勢に対する闘魂伝承、いやジャニ魂伝承の意味もあるだろう。存在自体が中年サラリーマン的、万年中間管理職的なV6、TOKIOがこれでどれだけ奮起するか、やはり紅白において万年前座枠であり、もはやプロ若者化しているSexy Zoneとどんな化学反応が起こるか、関ジャニ∞が嵐、SMAPを超えていくキッカケになるか、見ものである。

著作権問題があった森進一の「おふくろさん」、BPO問題があった和田アキ子が「笑って許して」を歌うなど、意味深な展開も。他にも坂本冬美と徳永英明の歌唱力対決、レベッカ、星野源、Superflyの投入、X JAPANがバラード曲ではなくメドレーで参加するなど、見どころはたくさんある。

出演者もスタッフも、そして視聴者も、死人が出るのではないかと思うほどの気迫を感じる。

個人的な想い、解説はここまでにして、これからが本題。

今年の紅白に対して、懐メロだらけだとか、メドレー大杉じゃないかとか、なぜこの人がという批判がある。

昨日もBLOGOSを見ていたら
<NHK紅白歌合戦出場曲にランキング1位はわずかに5曲>「懐メロ」で埋め尽くされた紅白は国民的番組ではない
http://blogos.com/article/151856/
というmediagongから配信された、矩子幸平さんの記事が掲載されていた。

タイトルが全てを語っているが、前述したようなよく見られる批判を代弁したものであるといえる。そのピュアな問題意識には同意しつつ、また数年前なら私もこんなことを言っただろうな(実際、書いていたような気がする)と共感というか、同情する。

とはいえ、こういう批判自体がちょっと違うのではないかと考える。要するに、日本の音楽シーンが変わっているのであって、それを紅白が反映している、むしろ過激なまでに先取りしているということなのではないかと私は見ている、悲しくなる部分を含めて。

今年の紅白のテーマは

ザッツ、紅白!
ザッツ、日本!

うん、皮肉にもこれが紅白だし、今の日本なのだよ。

以下、手短に論点を述べよう。
・紅白はその年のヒット曲「だけ」を紹介する場ではない。「代表曲」を紹介する場でもある。すでに演歌、ポピュラーなどは20~30年前からそうなっていた。
・ポップスの売れ方もド定番化(演歌化とも言う)。90年代後半にCDの売上はピーク。ネット配信に完全に置き換わるわけでもなく。ライブは伸びる。音楽の定額配信サービスは定番化をおしすすめる?新曲も出るが、定番で盛り上がる音楽シーン。
・新曲チャートは、ぱっと見はAKB、ジャニーズ、EXILEのファミリーだらけ。もっとも、これらを取り除いてチャートを作れば印象は変わるのだが、それが届きにくい。
・音楽の志向はベタベタ、コテコテの定番と先鋭化したものに多極化。
・やはりAKB、ジャニーズだらけに見えるが、これもまた現実(ただ、より多様なアーチストを紹介してほしいものの、一方、テレビに、紅白に出てくれる人たちのお祭りというのでもある)。
・演歌の大御所が減ったのは大きな変化。40代以下を意識したつくりになっている?
・メドレーは楽しむためにも便利。まさにDJがウケるのと同じ理由かも。
という点において、今の音楽シーンを反映したものだし、これはこれで「国民的な音楽番組」なのではないかと思う。いま、紅白に出る人たち、見る人たちの利害関係を調整したならば。ナウなヤングでライブ志向の子たちはカウントダウンジャパンに行ったりするわけで。

参考までに次のような記事を参照して頂きたい。

AKB商法を実は非難できないこれだけの理由 視聴形態が多様な時代の音楽チャートを考える | 「若き老害」常見陽平が行く – 東洋経済オンライン
http://toyokeizai.net/articles/-/73543

出版不況でも売れまくる!新興音楽誌の正体 新創刊で一気にブレーク、「ヘドバン」人気の秘密 | 「若き老害」常見陽平が行く – 東洋経済オンライン
http://toyokeizai.net/articles/-/62302

若者の音楽離れはウソ?中年はカモ! いまこそ「新曲不要論」を提唱しよう | 「若き老害」常見陽平が行く – 東洋経済オンライン
http://toyokeizai.net/articles/-/61261

就活テーマ曲ランキング…就活生はいつまで『負けないで』に励まされるのか問題 | しらべぇ
http://sirabee.com/2014/09/19/3277/

【コラム】売れるのはAKBと嵐だけ?あいつらを除いたヒットチャートを作ってみた | しらべぇ
http://sirabee.com/2014/07/11/954/

というわけで、悲しい部分、呆れる部分も含めて、これはこれで、一生懸命国民的音楽番組を成立させようとしていると思うのだ、NHK紅白歌合戦は。うむ。

僕たちはガンダムのジムである (日経ビジネス人文庫)
常見 陽平
日本経済新聞出版社
2015-12-02



僕たちはガンダムのジムであるの文庫版、よろしくね。

僕たちはスクールメイツの構成員であるって感じ?


編集部より:この記事は、千葉商科大学国際教養学部専任講師、常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2015年12月27日の記事を転載しました。転載を快諾いただいた常見氏に心より感謝申し上げます。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。