東京のIT関連企業のCEO中原祐馬は、会社拡大しか興味がなく、一緒に会社を作った親友の航平とも、彼を追い出す形で絶縁していた。その航平から何度も無言の電話あり不安になった祐馬は、彼の故郷・富山県新湊へ向かう。だが着いたときには親友は病でこの世を去っていた。祐馬は、航平が新湊曳山まつりをめぐって地元のために奔走していたことを知る。同じ頃、祐馬の会社が不正取引の疑いで強制捜査を受ける。会社や仲間などすべてを失って一人になった祐馬は、亡き友への思いから他の町に譲渡された曳山を取り戻そうと決心するが…。
「池中玄太80キロ」などテレビドラマ界の巨匠として知られる石橋冠の映画初監督作「人生の約束」。富山県射水市の新湊曳山まつりを題材に、会社拡大しか関心がなかった主人公が、かつての親友の死をきっかけに人生を見つめ直していく物語だ。地方都市を舞台に、自分を見失った男が、その土地の人々の暮らしや人柄に触れて、再生していく。ストーリーそのものは手垢がついたものだが、石橋冠の演出はすべてがストレートで奇をてらったところがない。初映画監督に臨む巨匠を慕う俳優陣の好演もある。さらに雄大な立山連峰をバックに、360年もの歴史を誇る勇壮な祭りとくれば、もうテッパンの作りだ。
新湊曳山まつりでは、祭に参加し曳山をひくことを“つながる”と表現するのだそう。この作品は明らかにシニア層向け。だが、劇中に登場する「つながりたい」という気持ちは、世代を問わず不思議なほど現代の世相にフィットする。勇壮な祭りのクライマックス、主人公が渾身の力で祭りに対峙し、提灯山にいっせいに灯がともる瞬間の美しさが心に残った。派手さはないが、丁寧であたたかい作品に仕上がっている。
【60点】
(原題「人生の約束」)
(日本/石橋冠監督/竹野内豊、江口洋介、松坂桃李、他)
(再生度:★★★★☆)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。