梶山季之の「赤いダイヤ」と投資

森本 紀行

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梶山季之の小説「赤いダイヤ」が出版されたのは、1962年、この本、今でも文庫で読むことができるが、その説明によれば、「赤い魔物と恐れられる小豆相場」に、「命を張って一攫千金に挑む男の物語」ということだ。すごい世界である。これぞ相場師という小説であるわけだ。


梶山季之は、同じ1962年に、「赤いダイヤ」よりも先に、「黒の試走車」で、経済小説という新分野を切り開き、一躍、流行作家に躍り出たのである。そして、1975年に45歳という若さで急逝するまでの短い時間に、膨大かつ多種多様な作品群を残している。

その生涯は、短いながらも、日本の高度経済成長の全盛期に一致しており、驚異的な速度で大量に書かれた作品群は、輝かしく成長していた日本の多面的な表現であり記録であったのだ。

時は移り、日本もすっかり変わり、梶山季之は忘れられてしまう。ところが、今でも「赤いダイヤ」が読めるのは、近年、再評価が進んでいるからで、「黒の試走車」は、あのお堅い感じの岩波書店の岩波現代文庫で再刊されている。なぜ再評価されているのか。高度経済成長期への郷愁であろうか、日本の再成長への期待であろうか。

この小説の影響もあって、商品先物といえば小豆、小豆といえば「赤い魔物」というのが、ひとつの定着した商品先物に関する通念になっているようだ。なにしろ魔物だから、それはもう、賭博と同列の投機以外の何物でもない。

その魔物の小豆先物相場も、マネッジドフューチャーズという運用手法を通じてならば、社会的に立派に通用する投資対象になるのは、なぜか。それは、小豆の先物は、実物の小豆の生産にとって、重要な役割を演じているからである。

小豆がなくなれば、羊羹も、お汁粉も、餡子入りのお饅頭も、食べられなくなる。小豆は、社会的に必要な農作物なのである。故に、その供給の安定化が図らなくてはならない。

小豆の価格変動は、極めて大きなものである。作柄によって供給量が大きく変動するからである。ところが、生産原価のほうは販売価格に連動しないので、容易に原価割れの状況を生じる。これでは、安心して生産活動に従事できない。つまり、安定供給体制構築のための長期的視点での戦略的な投資が行いにくいということである。

ここに、先物の重要な機能がある。先物とは、今の価格により先渡しで売ることだから、生産業者は、先物を使うことにより、価格が生産原価を上回っているときに、先に売って利益を確定させることができる。価格変動に対するヘッジである。先物市場は、生産者にとって、安定利益を確保するための重要なヘッジの道具なのである。

小豆先物は、ヘッジのための手段として、社会的機能を果たす限りにおいて、正当性をもつのであり、その正当性に基づいてのみ、小豆先物がマネッジドフューチャーズを通じて正当な投資対象になるということである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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