長島町と鹿児島相互信用金庫が協定を結んだ「ぶり奨学金」。今、全国の自治体や金融機関から問い合わせが相次いでいます。
町内に、高校や大学がない鹿児島県長島町(ながしまちょう)。
高校入学時には、
●片道1時間程度かけてバスで通うか
●寮に入るか
●あるいは家族全体で学校の近くに引っ越すか
ということを余儀なくされ、他の地域と比べて追加的な子育て費用がかかります。
そのため経済的事情により2人目・3人目の子どもを諦めることも珍しくなく、また、高校時代から町外に出るため卒業後もほとんどが町の外で働くこととなり、若者人口の減少が続いています。
そこで、回遊魚かつ出世魚の「ぶり」にあやかり、卒業後は地域に戻ってリーダーとして活躍してほしいとの願いを込めたのが、「ぶり奨学金」です。
(長島町は、世界最大のぶりの町!
日本で初めてEUのHACCP認証を取得、世界に輸出しています。)
「ぶり奨学金」は、保護者等が、長島町と提携した金融機関(=鹿児島相互信用金庫)から借りた「ぶり奨学ローン」を返済した場合で、出身の生徒・学生が卒業後、長島町に戻ってきたときには、返済した元利相当額をぶり奨学基金から補助する仕組み。
「ぶり奨学金」がとりわけ画期的なのは、長島町役場が金融機関(=鹿児島相互信用金庫)と「ぶり奨学プログラムに関する協定」を締結したこと。これまでの行政出資の奨学金と比べれば、その凄さがよく分かります。
これまでの行政の奨学金は、最初にどーんと基金を積むのですが、「その後いい加減に運用されて、尻すぼみになってしまう」ということが少なくありませんでした。
「ぶり奨学金」は全く異なります!最初、多額の基金を積む必要もありません。利用状況や将来の財政状況を見据えて、金融機関の専門的なアドバイスをいただきながら、自治体の負担を平準化することができます。
また、金融機関の奨学ローンを利用するので、これまでの行政の奨学金のように「返せるのに返さない」というモラルハザードも起きません。
だからこそ「長く続ける」ことができます。これから子供を生む保護者の安心につながります。
「ぶり奨学金」は、鹿児島相互信用金庫の英断があったからこそ、構想から数か月という短い期間で実現することができました。町役場には金融のノウハウや専門的知識はありません。役場だけでは、おそらく10年かかってもできなかったことでしょう。
非営利組織の信用金庫は、銀行とは大きな違いがあります。
それは、営業エリアが法律により限定されていること。だからこそ、融資残高や預金残高の減少に直結する人口減少に対して、信用金庫は自治体以上に危機感を抱いています。
地元の後継者を育成するとともに、地元からの寄付を通じて地域内の経済の循環を促す「ぶり奨学金」は、信用金庫だからこそできた仕組みだと考えています。
(「長島大陸食べる通信」も、鹿児島相互信用金庫の力強いサポートを受けています。)
地方創生とは、一言でいえば、人の流れ・お金の流れを変えること。
これまで「田舎から都会へ」人口やお金が流出するばかりでしたが、この流れを変えることが大切。「消滅可能性自治体」などの議論で人口の流出が注目されがちですが、お金も忘れてはなりません。電気代・通信費・教育費を始めさまざまな形で流出しています。
営業エリアが限定された信用金庫では、集めた預金は、全て地元に還元されます。これは地域にとって、めちゃくちゃありがたいことです。
友人の豊橋市議の長坂なおとさんが、
「マイナス金利」時代の、銀行の選び方。
という記事の中で、地域密着で、資金を地元に運用する「豊橋信用金庫に預金の大半を移す」と書いていましたが、僕もそうです。長島町に派遣されてから、長島町をエリアとする鹿児島相互信用金庫に預金を預けています。
地元の中で経済を循環していくことが大切。
地方創生の鍵は、信用金庫にあり!
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日本の高等教育に大きなうねり「ぶり奨学金」
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68492971.html
<井上貴至(長島町副町長(地方創生担当)プロフィール>
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68458684.html
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http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68480758.html
編集部より:この記事は、鹿児島県長島町副町長、井上貴至氏のブログ 2016年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『「長島大陸」地方創生物語~井上貴至の地域づくりは楽しい~』をご覧ください。