全米最大の保守祭典CPACが分ける予備選挙の明暗

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<CPAC主催団体のマット・シュラップACU会長とともに)

CPAC(Conservative political Action Conference)とは何か

3月2日~5日までワシントンDCで全米の共和党保守派数万人が結集する大会であるCPACが開催されました。

同大会はACU(The American Conservative Union)という全米最大の保守系団体の呼びかけによって開催される年に1度の祭典として40年以上の伝統を誇る政治イベントです。

CPACでは全米から保守派の活動家のリーダーが集まることを活用し、彼らによって誰が最も大統領にふさわしいのか、という模擬投票を行う仕組みが確立されています。同模擬投票は大統領候補だけでなく副大統領候補なども含めた保守派の大統領選挙における意見表明を兼ねています。

そのため、現在の米国共和党の政治シーンにおいて大きな影響力を持つ保守派からの「品定め」を受けてお墨付きを頂くために、予備選挙候補者全員がCPACに参加して演説を行うことが恒例の行事となっています。

共和党大統領予備選挙においてCPACの上記投票は決定的な意味を果たし、2012年に主流派と見られていたロムニー氏が保守派のサントラム氏に模擬選挙で勝利したことで予備選挙の決定的な流れが決まった経緯もあります。その際、ロムニー氏は自分がいかに「保守」であるのかということを会場の聴衆に向かって必死にPRしていたことが印象的でした。

ちなみに、CPACに一度も足を踏み入れたことがない米国関係の日本人有識者は米国共和党関係者にとってはモグリだと言っても過言ではありません。筆者も例年のようにCPACに参加して共和党の次世代の有望なホープの演説を見聞しています。

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(CPAC会場で模擬投票を行っている保守派の活動家たち)

トランプ・CPACドタキャンという前代未聞の行動を実行、結果は如何に・・・

ところが、絶大な影響力を誇るCPACをトランプ氏がまさかのドタキャン。理由は5日に行われる予備選挙への対応で時間の調整がつかないというものでしたが、そもそも当初4日の参加予定を5日早朝に変更した上に、何もかもすべてをドタキャンするという支離滅裂なものでした。

今年のCPACへの出席をマルコ・ルビオ氏が渋ってきた結果、予備選挙候補者でルビオ氏一人だけ別日程という不利な状況に置かれていた経緯も別にあるものの、トランプ氏に至っては出席を約束しながらイベント開催中に出席拒否を伝えたわけですから失礼にもほどがあるという印象を与えたことでしょう。

実際、トランプ氏はリベラルな傾向を持つという印象を持たれており、CPACに参加しても模擬投票で勝利することは難しかったでしょう。そのため、筆者はトランプ氏が「負けを回避しつつ、他の候補者が全員出席する行事をドタキャンして格の違いを見せる」ようにしたのだと感じています。

トランプ氏の計算通りになるかは分かりませんが、アイオワ州党員集会直前の討論会をボイコットした時にも前例があるので、トランプならでは話題作りを現地で体感できたことは貴重な経験となりました。

トランプ・CPACドタキャンが与える政治的な影響は計り知れないものになるだろう

CPACには延べ1~2万人程度の熱心な保守派運動員が参加費3万円以上を支払って参加しており、旅費なども含めると10万円以上かかって参加している人も珍しくありません。そして、彼らの多くが各地域における共和党の選挙運動の足腰を支える役割を果たしています。

CPACでの出席をアナウンスして全米から共和党支持者を集めながら、それをドタキャンした悪印象は相当なものになるだろうと推測されます。実際、テッド・クルーズの演説で「トランプは逃げた!」というようなニュアンスの発言があり会場では大盛り上がりという状況になりました。

従来までトランプ氏は、予備選挙の他候補者や共和党に投票しないであろう層を叩くことで、共和党支持者の約30%にコアなファン層を形成する戦略を取ってきました。しかし、今回は初めて共和党支持者層に対して明確に悪印象を与えたる結果になったと思います。彼らにお金を払わせた上に出演をスポイルしたわけですから、その影響は今までの発言による反響とは違うものになるでしょう。

共和党執行部とトランプ氏の激しい対立は報道されているところですが、これまで共和党保守派についてはトランプ氏への意見は割れた状態であったように思います。今回はその両者の有権者層に対して好ましくない印象を与えたことは確かでしょう。

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<テッド・クルーズ陣営の選対責任者、ポール・テーラー氏と会場にて>

模擬投票の結果はクルーズの勝利、保守派の候補者に神風が吹き始めている状態に

結局、CPACにおける模擬投票は順当に保守派のクルーズの勝利ということになりました。投票結果からは保守派としてはクルーズ大統領・ルビオ副大統領を望んでいることを読み取ることができました。

日本の報道ではトランプ氏の勝利が米国政治を一変させるというものが多いのですが、筆者としてはトランプ・ルビオ・クルーズの3氏の中で米国政治を一変させる可能性が高い人物はクルーズ氏であると確信しています。トランプ氏が政治を変えるという言論を垂れ流している人は、米国政治について良く知らない人か、米国政治を知った上で虚偽を述べている人でしょう。

米国の政治の左右の振れ幅を左から整理すると、サンダース、ヒラリー、トランプ、ルビオ、クルーズという順番になり、実は3氏の中でトランプ氏は限りなく民主党に近い経済政策や社会政策を持っています。そのため、見方によってはトランプ氏は共和党の中では比較的大規模な政策変更を米国に与える可能性が低い候補者であると評価することもできます。

一方、クルーズ氏は筋金入りの保守派であり、小さな政府の理念を徹底的に追求することは間違いなく、最も大規模な政策変更を実行していくことになるでしょう。そして、そのような大規模な政府機構の改革は世界各国の政治の在り方にもインパクトを与えて、世界の姿を変える一つの軸が提示されることになります。したがって、米国における既得権層が最大に恐れている人物はトランプ氏ではなくクルーズ氏なのです。

CPAC以後、保守派との関係に決定的なヒビが入ったトランプ氏は予備選挙で苦戦を強いられていくことが予想されます。勝負の行方が非常に楽しみな状況となってきました。

渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
東京茶会(Tokyo Tea Party)事務局長、一般社団法人Japan Conservative Union 理事
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