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④ 保育需要減少時の対応策(定員の空きに障害児デイができるように)
基礎自治体は、将来的に少子化になった際に、保育所が余ることを懸念しています。それが彼らの意思決定に、過少投資のバイアスをかける要因の一つになっています。
一方で、児童発達支援事業や放課後等デイサービスのような、障害児のデイサービスに関しては、まだまだインフラが整備されきっておらず、かつ待機児童解消後にも一定のニーズが見込めます。現在は、子ども子育て支援新制度と、障害者総合支援法は別の法体系になっているので、両者を同施設内で行うことはできませんが、空き定員に障害児デイが行えるようにすることで、将来的な「保育園余り」の事態に対し、逃げ道をつくることができます。
ちなみに現在すでに「余裕活用型一時保育事業」と言って、定員の空きがあった場合は一時保育が可能な建てつけになっているので、定員の空きを活用すること自体は現行法でも認められています。
現在、待機児童集中エリアに空きはあまりないのですが、この「余裕活用型障害児デイ」を認める法整備をしておくことで、自治体側の「少子化でいつかニーズもなくなるので、過剰投資したくない」というバイアスを是正することができます。
⑤ 物件規制の緩和(「100平米の壁」を適用除外に)
100平米を超えると、全国一律で、住居から施設へと用途変更が必要になり、それに伴いマンション全体にスプリンクラーをつけなくてはならなくなる等、過剰な規制が存在します。それが100平米以上の認可/小規模認可保育所等を賃貸で開設する際に、物件オーナーに大きな負担を強いる場合があるため、ハードルになっています。
また小規模保育も100平米の壁を回避しようと、100平米未満物件に限られてしまうことで、物件利用の幅を狭めてしまっています。待機児童集中エリアを「建築基準特別地域」に指定し、全国一律無差別でかけている規制を適用除外にするべきです。
⑥ 物件オーナーへの税制インセンティブ付与(保育所活用の際の固定資産税減免等)
土地や所有物件を保育所に貸し出そうとする場合、長く借りてくれるため安定的な反面、騒音や住民トラブル等の問題を抱えることに。また支払い可能坪単価が商業物件よりも低いことで、大家の貸し出しインセンティブが低下します。
そこで、保育所等に貸し出す場合は、固定資産税が減免される等、インセンティブをつけることで、不動産市場に出てくる「保育所利用可能物件」の総数を増やすべきです。
⑦ 通園圏の拡張による物件選択肢の拡大(送迎加算の創設)
保育事業者が開園を計画する際には、該当基礎自治体全体の待機児童と共に、「どのエリアに待機児童がいるか」をもとに、開園計画を立てます。例えば、東京都の南部豊洲エリアで待機児童が多く発生していたとして、北部亀戸エリアに空き物件があっても、南部豊洲エリアに見つからない限りは、開園はできません。
一方で、待機児童集中エリアほど物件を見つけることは容易ではありません。ただし、幼稚園のように園バスがあれば、通園圏が大きく拡大するため、待機児童集中エリアにピンポイントで物件がなくても、多少離れたエリアで物件が見つけられるため、開園選択肢が増えることになります。
例えば高円寺駅前の物件から、車で15分の送迎が可能になると、上記のように杉並区の大半や中野区等まで商圏化できることになるため、これまで物件としては圏外であったものが、射程に入ることになります。
なぜこれまで「保育園バス」が存在しなかったかというと、送迎に対する補助がなかったためです。送迎には車両リース及び運転手、同乗スタッフが必要だが、それらをカバーするコストを捻出することは不可能でした。送迎加算(補助)を、認可保育所・小規模保育所問わず、すべての保育施設でつけられるようにしていくことで、保育可能物件の範囲が大きく拡大します。
⑧地域住民からのクレーム対策(「保育所等子ども施設保護法」の制定 )
地域住民の反対によって、保育所の建設が阻まれたり、激しいクレームによって閉園に追い込まれることが頻発しています。民間が認可・小規模認可保育所を開園しようとする際、クレーマーと事業者が直接相対することとなり、行政は原則不介入となります。保育所側としては、度重なるクレームや周辺住民とのコミュニケーションは負荷が大きく、それならば開園場所の変更/閉園した方が合理的、となります。
そこで「保育所等子ども施設保護法」を制定し、以下を決めます。
・子どもの声は騒音として取り扱わない
・子どもの声が不快だとする住民は、保育所ではなく、広域自治体にある仲裁機関に申し立てる
・仲裁機関が妥当だと判断した場合、クレーマー住民の家屋の窓を二重化する等の補助を行うことができる
ドイツでは既に「子ども施設の騒音への特権付与法」が成立しており、保育所及び子どもたちが保護されているので、これに準じた法整備を行います
⑨ 地域型保育の預かり幅の拡大(三歳児以降でも保育可能に)
子ども子育て新制度によって創設された地域型保育(小規模保育・居宅訪問型保育・事業所内保育・家庭的保育)は、開園や運営に柔軟性が高く、待機児童解消に大きく貢献しえます。特に小規模認可保育所は初年度で1655箇所(認可保育所の6%程度)と激増しています。
一方で、地域型保育は事業所内保育を例外として、「0〜2歳まで」と定められています。これは制度設計の背景に、待機児童の多くが0〜2歳までに集中していたこと、3歳以降は幼稚園などに転園することを前提にしていたことがありました。
しかし、都市部においては3歳児でも待機児童が発生していること。幼稚園が3歳児以降の受け皿になっていないこと等があり、前提が崩れています。
そこで、地域型保育でも3歳児以降を受け入れられるように制度改正を行います。例えば、3歳〜5歳までの子どもを12人預かる小規模認可保育所を作れるようにする のです。
その際に、既存の公定価格を用いると、3歳児は保育士1人で20人みる前提になり、到底財政的に成り立たないため、地域型保育における3歳児以降単価を新たに設定する必要があります。
⑩ 施設以外の選択肢を創出(居宅訪問型保育を待機児童対策にも活用可能にし、定員も柔軟化)
現在、障害児とひとり親を中心に規定されている地域型保育における「居宅訪問型保育」事業を、待機児童になった場合にも利用可能にすることを提案します。既に千代田区等では柔軟運用の実例があり、自治体に対して法解釈を明確化するだけで良いので通達レベルで可能です。
また、現在は、居宅訪問型は基本的に1対1に限定されてしまっているが、例えばAという家庭に訪問保育をするが、同じマンションのBという家庭の子どもも預かれる、という複数子対応も可能にすれば、費用対効果は向上します。
海外では、こうした運用はイギリスのチャイルドマインダーやフランスの保育ママ等で行われていますが、日本においては家庭的保育事業(保育ママ)は保育者の自宅のみを想定しているため、上記のような柔軟運用はできません。
居宅訪問型用途を柔軟化し、かつ定員数も1〜3人とすることで、より待機児童解消に貢献できる仕組みになります
以上が、私の「待機児童解消十策」です。十策の中でも、重み付けとしては、特に①保育士給与の改善 が最も効果が高く、②「子ども子育て保育所創設臨時基金」創設 ③都市部の公定価格見直し ⑨ 地域型保育の預かり幅の拡大 が次に効果が高い施策と考えます
他にもたくさんの方々が、具体策の知恵を出し合い、政府の施策を少しでも前に進めていけたら、と願っています。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2016年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。