Bloombergの “Saudi Aramco to sell stake in parent of state oil giant by 2018” (April 1, 2016; 6:30pm JST) を読んで、何とも言えない違和感を覚えている。
5時間も会話(conversation)して、他のことは話さなかったのだろうか、という違和感だ。
今年初めに英誌 ”The Economist” がインタビュー(interview)した時は、本件も重要なトピックスだったけれど、社会改革の必要性だとかイエメンへの空爆だとか、モハマッド・ビン・サルマン副皇太子(MBS)の様々な考え方などを聞きだしていた。だが、Bloombergのこの記事では、ほぼ標題に限った話しか書かれていない。
この記事のポイントは、これまで複数のルートが考えられていた「上場への道」が、持株会社方式の5%以下をサウジ国内で上場する案が有力になった、という点にある。本件の背景、経緯などについては、2016年1月11日付弊ブログ「127.サウジアラムコは石油精製・石油化学部門のみを売却」を参照して欲しい。
上場する5%以外の分は、Sovereign Wealth Fund(国家資産ファンド)であり、現在SABIC(石化会社)などを所有するThe Public Investment Fundが保有することになる、としている。また、サウジアラムコは「石油ガス会社」から総合的な「エネルギー産業会社」に転換する、というMBSの発言も重要だろう。
この記事で特に筆者が興味を持ったのは、サウジが一貫操業体制を目指し、現在5百万B/Dほど保有している国内外の精製能力を、将来8~9百万B/Dに拡大することを考えている、という点だ。
1928年の「アクナキャリー協定」で、現在のエクソンモービル、シェル、BPにつながる当時の三大国際石油会社が秘密裏に目指したのは、世界全体の石油需要を三社で把握し、そこから供給量(原油生産量)をコントロールして、石油価格の暴落を防ぐという方策だった。ところが1970年代にオイルショックで価格決定権をOPECに奪われた大手国際石油会社は、一貫操業体制へのこだわりを捨て、是々非々で対応している。いやむしろ、精製販売部門(下流)からは撤退の方向性を示している。
一方、今日のサウジは、自らの原油生産量に見合った精製販売能力を確保することを目指しているようだ。
なるほど。
それにしても、と筆者は思う。
この記事のトピックスだけなら、「会話」は1時間もあれば十分だ。残りの4時間あまり、政治、軍事、社会体制改革などについてどんな話をしたのだろうか?
続報が期待されるところだ。
岩瀬 昇 エネルギーアナリスト
1948年埼玉県生まれ。東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、二度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクで延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発を退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」の代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門』、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』(共に「文春新書」)がある。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年4月2日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。