一昨日、三菱自動車の相川社長が記者会見を行い、自社の軽自動車2車種と日産向けに生産した2車種を合わせた62万5000台で、意図的に燃費に関する不正を行っていたと発表しました(それ以外にも広がる可能性はまだ否定できません)。
カタログに載せる燃費性能は国交省の審査で決まりますが、その算出は国の施設で行う走行試験データに、メーカーが届け出た走行抵抗値と呼ばれる数値を掛け合わせるなどして行われています。
今回の不正は、基礎データである「走行抵抗値」を改ざんしたというもので、これによって燃費性能が高く表示され、実際とのかい離が5~10%となっているとのこと。
「良い燃費に見せようという意図があった」と認めていますが、現段階ではどのような経緯で不正が行われていたかは分かりません。
このような問題が発覚した際、私は「経営理念」を確認するようにしています。
同社は2000年、2004年と立て続けに「リコール隠し」が発覚し、経営危機に直面した反省から、『大切なお客様と社会のために、走る歓びと確かな安心を、こだわりをもって、提供し続けます』という新しい理念を掲げたばかりでした。
一つ足りないと感じるのは、この中に「従業員」や「社員」という言葉が含まれていない事です。
日本の企業は1961年ごろに流行った三波春夫(歌手)の「お客様は神様です」という言葉の字面通り、従業員が何もかも犠牲にしてお客様のために取り組むという姿勢が世界で類を見ないほど強いと思います(三波さんの真意とは違うようですが)。それが日本特有の「サービス」と「おもてなし」を醸成してきた為、良い側面をもつ考え方であるのは間違いないでしょう。
しかし、それが行き過ぎると、その「名目」のもとで従業員が多大なる自己犠牲を強いられることも往々にして起こります。
もし、経営理念を盾に「どんなことをしてでも、お客様と社会の為に、他社に負けない高燃費の車を作るんだ!」と、上から下にプレッシャーを与えていたとしたら…。また、その数字を達成する為に、上司がうすうす「不正」に気づきながらも、見て見ぬふりをして
書類を回していたら…。
仮に、三菱自動車の経営理念が、
『大切なお客様と社会のために、走る歓びと確かな安心を、社員一同真摯に力を合わせて提供し続けます』
で、それをしっかりと教育の中に取り入れて実践をしていたならば、中には問題に気付いて「歯止め」となる社員が生まれていたかもしれません。
近年、問題を起こしたオリンパスの経営理念『社会の価値を会社の中に取り入れる』
旭化成の『世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献』
東洋ゴムの『独自の技術を核として新たな価値を創造し、人と社会に求められる企業であり続ける』
全て立派なものですが、世界や社会に目を向けている反面、
「社員の幸せ」をどう考えているのか・・・少なくともそれを感じさせる言葉は見えてきません。
もちろん、今回の問題はそれだけではなく、他社からの指摘があるまで不正に気付けなかった社内のガバナンス、メーカーから申告する走行抵抗値について「不正は想定していない」としている国の審査体制等もあり、改善しなくてはいけない点が多々あります。
しかし、経営理念が企業のガバナンスや社員教育の中心となる存在でなくてはならない中、「大切な社員や従業員」の幸せをうたっている企業が少ないことが、今の日本の企業の有り方を露呈しているような気がします。
社員が自社の社会的立場を理解し、同時に自分たちの幸せを追求できていなければ、いくら世界の為にというスローガンを掲げても、多様な価値を求める成熟した社会の中では絵空ごとになってしまう恐れがあります。
編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、参議院議員の松田公太氏(日本を元気にする会代表)のオフィシャルブログ 2016年4月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。
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