出産後に妻が自殺することを、我々はどう止めるのか

駒崎 弘樹

(※編集部より27日19時30分;画像が一時不具合により表示されていませんでした。失礼しました。)


衝撃的な調査を毎日新聞が報じています。

妊産婦自殺:10年で63人…東京23区 産後うつ影響か

– 毎日新聞http://mainichi.jp/articles/20160424/k00/00m/040/088000c

東京23区だけで63人ですので、全国にするとその10倍、630人もの女性たちがなくなっていることが想定されます。

これは、1週間に1人を超える頻度で、どこかで母たちが自ら命を絶っているということになります。

【産後うつとは】

なぜこんな悲しいことが起きてしまうのでしょうか?

1つの答えは、産後うつです。

産後はホルモンバランスが崩れ、鬱状態になりやすくなります。

一般の人が鬱になる率が、6.5%程度なのに対し、産後うつになる率は10%程度です。

(出典:http://bit.ly/1qO6hQX

なんと10人に1人が、産後うつになっているのです。

(出典: 毎日新聞http://bit.ly/1SDQjST

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【産後うつは、子どもの命に関わる】

虐待死に占める割合は、実は0歳児が最も多いのです。(出典:平成25年 厚労省社会保障審議会報告)

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望まない妊娠や貧困が背景にあると言われていますが、産後の不安定な精神状態が虐待につながる危険性も指摘されています。

【夫婦関係も破綻する】

産後は、夫婦関係が壊れてしまう危険性がある期間でもあります。

離婚が最も多いのは、子供が0から2歳の時。つまり産後まもなくの時です。

(出典:厚生労働省母子世帯等調査http://bit.ly/1MRJFJD

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【しんどいことが気づかれにくい】

出産と言うのは、おめでたいことです。みんな、「出産おめでとう!」「赤ちゃんかわいいねー!」と言って、生まれてきた赤ちゃんに注目します。

しかし、心身ともに大きなダメージを負った妻はあまり注目されません。

「きっと赤ちゃんが生まれて、幸せの絶頂なんだろうな」

「無事に生まれて、安心してるだろうな」

とは思われますが、本気で心配される事は稀です。

それどころか、生まれてきたばかりの赤ちゃんのおしめを変えたり、ひっきりなしにしなくてはならない授乳等に疲れを癒す暇もありません。

しかし、しんどいとは言いづらいのです。おめでたいことだから。そんなこと言ってはいけない、と思ってしまうわけです。

【僕たちに何ができるのか】

さて我々夫たちができる事は何でしょうか。そう、心身ともに激烈なダメージを負った、そして産後うつになる可能性もある妻たちの代わりに、生まれてきたばかりの赤ちゃんの世話を、そして家事を替わって行うことです。

私事ですが、第一子が生まれた時に、妻が産後うつとは言わないまでも、疲れもあってかとても精神的に不安定な状況になりました。保育の仕事をしているため知識はあったのですが、いざ本当に妻がふさぎ込んでいるのを見ると、正直焦りました。

とにかく端を休ませようと、オムツ替えからミルク、食事の用意や家事など、片っ端からやってのけました。

直に妻も回復していき、精神状態も安定してきました。心底ほっとしたことを、今でも覚えています。

【夫のコミットメントは妻の命を救う】

僕が家事や育児にフルコミットできたのは、育休を取っていたからです。2カ月間、仕事は1日1.5時間だけやって、後は育児に全力投球しました。

(誤解が多いので重ねて言いますが、育休は完全に休まなければならないものではなく、月80時間以内であれば働いてよく、給付金も出ます)

あの環境があったからこそ、心身共に擦り切れている妻に替われたのです。もし育休を取ってなかったら、と思うとゾッとします。

(育休だけでなく、残業しまくりの長時間労働を脱することが大事なことは言うまでもないでしょう。)

【男性育休を阻む価値観の壁】

しかし男性育休はまだまだ一般化していません。

取得率は2.3パーセントとお寒い限り。

国はこれを2020年までに13パーセントまで上げたいとしていますが、道のりは険しいです。

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なぜ育休取得率は上がらないのか。

アンケートを見ると、「職場の雰囲気」によって阻まれています。

“男性が育休取得できる雰囲気あり”は23.6%、女性の73.7%より50.1ポイントも低い

同僚男性の育休取得、5人に1人が「不快に思う」

http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2013/4940.html#anchor3

知人が育休を申請した時に、上司から「男がいても、何の役にも立たないんだから」などと嫌がられたという話も聞いたことがあります。

まだまだ社会的に認められづらい、男性育休。それは、「出産や育児は女性のもの」という価値観の裏返しでもあるのではないでしょうか。

産後直後からの、男性の育児参画。そして男性育休は、わがままや「イクメンぶりたいやつのエゴ」なんかではなく、妻と子どもの命を救うことにも繋がるのだ、ということを、同僚や上司、そして社会が理解することが、極めて重要なのではないでしょうか。

最愛の人たちを、死なせてはいけない。

男性の皆さん。勇気を出して、変えていきましょう。

自身の働き方を。職場を。そして社会を。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2016年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。