ビヨンセ、不倫とベッキーのネタで余裕のビルボード1位

安田 佐和子

Beyonce

アメリカが誇る歌姫ビヨンセ、6枚目の新作”レモネード”はHBOに放映権を与えビジュアル・アルバムとしてリリースしました。アルバム発売初日は夫であるジェイ・Zが設立した音楽ストリーミング・サイトのタイダルでのみアルバム購入が可能でしたが、現在はiTuneやアマゾンでも可能。ストリーミングはタイダル、パンドラしか受け付けず、ライバルのスポッティファイを排除しています。前作ではアップルのiTuneオンリーで突如ドロップし世間をアッと言わせたものですが、今回も特異な手法でメディアをジャックしました。

ちなみにビヨンセ、奇抜な販売作戦ばかりが奏功したわけではありません。夫の不倫疑惑を逆手に取って新作の売上につなげたのですよ。

HBOが放映した”レモネード”、視聴者を勘繰らせるには十分でした。

“If you try this sh*t again you gon’ lose your wife,”—もしまたこんなことしたら、離婚するわよ

おまけにシャイン・イエローのドレスを身にまとい、ストリートに駐車する車の窓ガラスを次々に叩き割っていく・・。浮気された妻が、怒り狂ったような描写そのものですよね。今作がジェイ・Zとの離婚ファンファーレと受け止められても、おかしくはなかった。

夫ジェイ・Z、リスニング・パーティーでご覧の表情。
jay
(出所:Twitter via The Guardian

ただこのバットのシーン、コールドプレイのお株を奪ったスーパー・ボウルのハーフタイム・ショーよろしく、マイケル・ジャクソンの”ブラック・アンド・ホワイト”をオマージュしたように見えます。さらにスイス出身のアーティスト、ピピロッティ・リストの” Ever Is Over All ”をトリビュートしたとの説も。ピピロッティがフェミニストと受け止められ、ビヨンセ自身も自称しているだけに可能性は拭えません。

確かに”Becky with the good hair”との歌詞があまりにセンセーショナルで、イギー・アゼリアやリタ・オラといった白人女性アーティストがジェイ・Zとの浮気相手と騒がれました。ベッキーという名前はアメリカで白人女性を意味するとされ、90年代のヒット曲”Baby Got Back”のビデオは”Oh, my God, Becky, look at her butt!!”で始まりますよね。挙げ句の果てには、口での奉仕が上手な女性という暗喩まであるといいますから恐ろしい・・。ちなみにグッド・ヘアーは黒人にとってある意味タブーで、”ちぢれていない髪”を意味します。即ち白人を指すとの説が根強い一方、奴隷制時代にはライトスキンかダークスキンか、グッドへアーか否かといった判断で黒人女性をメイドにするか重労働に出すかを決断したとか。

つまり何が言いたいかというと、この作品は離婚宣言ではありません。HBOで放映したビデオも、ジェイ・Zや愛娘ブルー・アイヴィ—との団らんで締め括るなど、ほのぼのした家族愛に満ちています。下世話なネタは別として、白人警官に射殺されたマイク・ブラウン氏、自警団に射殺されたトレボン・マーティン氏の写真を持つそれぞれの母親の姿にクローズアップしていた点にも、注目。むしろ女性として黒人として、自身のアイデンティティを盛り込んだ意欲作と言えます。

満を持して発表した新作”レモネード”、初週に48.5万枚を売り上げ6回目のビルボード1位に輝きました。不倫疑惑が購買意欲に火を点けたことは間違いありません。不倫の噂は夫婦で合意した演出でもあり、2.2億ドルも巨額な利益を生み出したというニュースまで飛び出しました。さすが、パワーカップルは策士ですね〜。

(カバー写真:Nat Ch Villa/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年5月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。