日銀は9日に3月14日、15日の金融政策決定会合議事要旨の公表を行った。3月14日、15日の決定会合で注目されたのは、1月に導入を決定したマイナス金利政策への評価となった。
3月の会合で金融政策は現状維持となったが、MRFに係る「マクロ加算残高」の計算方法の特則の制定などを行っている。つまり業界からの強い要望を受けて、マイナス金利の特例を設けるなど微調整を行ったのである。これについて日銀は、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとで補完当座預金制度をより円滑に運営する観点から、実務的な対応を講じることとしたとしている。しかし、マイナス金利政策を導入するにあたり詰めが甘かった面もあったかと思われる。
「何人かの委員は、MRFが個人の証券投資の決済機能を担っていることを指摘し、その機能の円滑を確保することが適当であると述べた」
そうであるのがわかっていたら何故1月29日の会合でこのあたりについての議論はなされていなかったのか。1月の決定会合議事要旨ではこれに関する発言はみられない(もしかすると10年後に公表される議事録にはあるかもしれないが)。
「ある委員は、こうした工夫や改良を講じることで、マイナス金利政策の緩和効果を最大限引き出していくことが重要であると指摘した。」
こうした工夫や改良そのものがマイナス金利の弊害をむしろ示すことにはなるまいか。工夫や改良でマイナス金利の緩和効果を引き出せるものなのかも疑問である。
そのマイナス金利の効果について、「大方の委員は、金利面では、マイナス金利の導入の効果は、既に現れているとの認識を共有した。」としている。ところが、その発言の前の予想物価上昇率について「委員は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられるが、このところ弱含んでいるとの認識を共有した」との発言があるのだが。
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和は、イールドカーブの起点を引き下げ、大規模な長期国債買入れとあわせて、金利全般により強い下押し圧力を加えるという狙い通りの効果を発揮していると述べた。」
たしかにそれは認めたい。マイナス金利政策の導入決定後、残存10年を超える国債の利回りがマイナスとなり、短期債ではマイナス1%台もつけていたが、それらは日銀のマイナス金利政策が生んだものである。
「住宅ローン金利の低下は、住宅投資を刺激するほか、借り換えを通じて債務者の金利負担を軽減し、消費にもプラスに働くとの見方を示した」
新規の住宅投資が思いの外、伸びてない理由も説明してほしかった気がする。
「複数の委員が、マイナス金利導入後も円高・株安が続いたことについて、世界的な投資家のリスク回避姿勢の過度の強まりを背景とするものであると指摘し、市場が落ち着きを取り戻すにつれて金利低下の効果はしっかりと波及していくとの見方を示した。」
そもそもその金融市場のリスク回避の動きを沈めるため、つまり年初からの急激な円高株安を意識してのマイナス金利政策の導入ではなかったのか。
「複数の委員は、マイナス金利付き量的・質的金融緩和はこれまで所期の効果を発揮してきた量的・質的金融緩和を一段と強化するものであり、実質金利の引き下げを通じて雇用・所得面を含め国民生活に幅広いメリットをもたらすということをしっかりと説明し、人々の理解を得ていくことが重要であるとの認識を示した。」
マイナス金利付き量的・質的金融緩和」はこれまで所期の効果を発揮してきたというのであれば、肝心の目標となる物価がゼロ近傍となっているのはどういうことなのか。マイナス金利は国民生活に幅広いメリットをもたらすどころか、デメリットをもたらす面の方が大きいようにも思えるが。これについては次の意見も出ていたが、こちらが正論に思える。
「具体的な影響として、金融機関や預金者の不安を招いたこと、日本銀行の政策運営が分かり難いものとなったこと、金融市場の不安定化に拍車をかけたこと、行き過ぎた追加緩和期待が醸成されたことなどを指摘した。」
「複数の委員は、マイナス金利付き量的・質的金融緩和のもとでのポートフォリオ・リバランス効果について、国内の投資対象資産が限られていることから、必ずしも期待した効果に繋がっていないと付け加えた 」
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年5月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。