給付型奨学金に反対する

駒崎さんには悪いが、アゴラは論争の場なので、あえて彼の提案に反対意見を書く。「経済格差が学力格差を生む」という彼の主張は正しいが、給付型奨学金はその解決策にはならない。以前の記事でも書いたように大学教育への投資と人的資本形成には相関がなく、大学は社会的浪費だから、これ以上公的投資を増やすべきではない。


しかし大学の私的収益率は高い。人的資本が形成されなくても、学歴のシグナリング効果が大きいので、大卒の生涯所得は2億5000万円で高卒より5000万円多い。授業料を400万円としても投資利回りは10倍以上だから投資のインセンティブが十分あるので、奨学金は必要ない。

ただし貧しい家庭の優秀な子どもが学歴を得られないことでよい職につけないのは不公平なので、資金繰りを支援する貸与型奨学金が合理的だ。その教育に十分な効果があれば、学費は将来の所得で返済できるはずであり、返せないような大学には行くべきではない。

大学予算を増やさなくても、奨学金を増額する財源はある。国立大学法人と私立大学に出ている毎年1兆5000億円の助成金を大学に出す代わりに、学生に奨学金(バウチャー)として支給すればいいのだ。その支給額は成績に連動させ、定員割れの私立大学には出さず、推薦やAO入学者は除外する。

もっと効率の高い投資対象は、幼児教育だ。多くの人が経験で知っているように、「できる子」は小学校高学年までに決まる。教育の効果が最大なのは8歳までなので、今の大学教育に出している公的投資を幼児教育に転用して義務教育を5歳入学にし、教育バウチャーで公立・私立の格差をなくすべきだ。

ヘックマンなども指摘するように、幼児教育には公的投資が大幅に不足しており、教育技術も開発されていない。「すべての子供に教育の機会を」という駒崎さんの理想には私も賛同するが、そのための投資は彼の本業である幼児教育に集中すべきだ。