消費増税と個人消費と物価

日本のGDPの約6割を占める個人消費に関して日銀は新たに「消費活動指数」という指数を作成し公表を始めた。消費活動指数は、財とサービスに関する各種の販売・供給統計を基礎統計とし、月次のような短期的な消費活動を把握することが可能となり、速報性も有していると日銀は解説している。

この日銀の消費活動指数は消費活動指数は基本的には、販売・供給統計である商業動態統計(財)や第三次産業活動指数(サービス)に含まれる個別の統計系列に加え一部の業界統計を統合して作成したそうである。名目値と実質値、旅行収支を調整したものと調整していないものなど複数の指数が存在しているが、ベンチマークとなっているのが「実質消費活動指数(旅行収支調整済)のようである。

個人消費に関しては総務省統計局が行っている家計調査によるデータが毎月発表されているが、調査対象が限られることでそのデータでどこまで個人消費の動向を的確に示されるのか疑問が出ていた。このため日銀のこの新たなデータは個人消費の動向をみる上で参考になるものと期待される。

ただし、日銀がなぜこのタイミングで新たな指数を発表したのか。これはなかなか物価目標が達成できないため、その理由を示すものと用意したのではないかとの見方もある。物価の新コアコア指数はまさにそのような指数に思えたが、その隠れた目的はさておいて、実際の消費活動指数とコアCPIの動向をグラフで重ね合わせて消費とそれによる物価への影響を見てみた。

たしかに大きなトレンドとしては似通ったかたちにはなっている。特に2014年4月の消費増税を期に消費も物価も落ち込んでいることが読み取れる。ただし、これで消費増税によって物価の上昇が削がれたと結論づけることはできない。

過去の動向をみると2008年に入ったあたりからコアCPIが大きく上昇したが、消費はこのあたりからむしろ落ち込んでいる。これはこのときの物価上昇が原油価格の大幅上昇によるもので、むしろこれが消費にブレーキを掛けていた可能性がある。

さらに2011年3月に個人消費が大きく落ち込んでいた。これは東日本大震災による影響であろうが、コアCPIはそれにほとんど影響を受けていない。

そして問題の2014年4月にかけての個人消費の急上昇後の急低下は、まさに消費増税前の駆け込み需要があったことを示すものと言える。それが物価にも影響を与えてコアCPIも2014年4月に前年比プラス1.5%から上昇幅を減少させることになったと言えなくもない。たしかに個人消費の低迷が直撃した部分はあろうが、個人消費そのものは大きく落ち込んだあとやや回復し、しかも水準そのものはコアCPIほどの落ち込みではない。

コアCPIが2014年4月に向けて上昇していたのは、アベノミクスをきっかけとした急激な円安株高の影響、原油価格の高止まり、そこに消費増税に絡んだ駆け込み需要と、消費増税と円安で値上げしやすい環境となっていたことなどが要因ではなかろうか。このグラフを見る限り、コアCPIの上昇が止まったのは消費増税が主因とは言えない。参考までに、2013年4月から日銀は大量に国債を購入するになどの異次元緩和を続けているが、これが物価はさておき、個人消費にも何かしらの影響を及ぼしているようにも思えないのだが。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。