消費税先送りで8%が恒久化の恐れ

中村 仁

引き上げには与野党の政治休戦が必要

安倍政権は消費税の引き上げを先送りする方針を固め、後は意思表示のタイミングを待っているだけです。2017年4月の予定をいつまで引き延ばすのか。民進党などは2年先送りといっています。3年先とか4年先というと、やる気がないと、思われますから安倍政権も、2年程度を言い出すでしょうか。

それなら与野党が共同歩調をとり、消費税については政治休戦し、政争に持ち込まないようにすれば、19年4月の10%への引き上げは実現できそうなものです。実際はそうはいかないでしょう。消費税は与党を揺さぶる絶好の政治的材料です。「増税できる経済環境を作れなかったのは、アベノミクスの失敗のせいだ。退陣せよ」とか、飲めない条件もをいろいろつけるでしょう。アベノミクスは安倍政権の最大のスローガンでしたから、旗を降ろすわけにもいきません。

与野党が同じ期間の先送りで一致しても、10%上げに踏み込めるでしょうか。景気が好転していない、選挙があるとかいって、先送りを繰り返し、私は今回も時間稼ぎに終わり、消費税は8%のまま、相当に長い期間、据え置かれるように思います。日本の財政計画、社会保障政策は消費税8%を前提に再設計する準備に入ったほうがいいようですね。

1強政権でありながら増税回避

「将来は20%以上に引き上げないと、財政も社会保障制度は持たない。8%での据え置きなど、とんでもない」といういう人が多いでしょう。「こうあるべきだ」という考え方に立てば、その通りです。問題は、久しぶりの1強政権、高い支持率している安倍政権ができないようなことを、どの政権ができるのかです。安倍首相が今回、逃げ回ったように、後の政権はよほどの政治的、経済的な好環境にめぐりあわない限り、リスクを冒さないでしょう。

さらに2年程度の先送りで10%にこぎつけたとしても、もうそこで息切れでしょう。「8%を前提」が無茶なら、「10%を前提」にするのでしょうか。長期的にみれば、大差はありません。8%程度の消費税収入で、やりくりできるように、年金、医療、介護などの社会保障費をきるか、資産課税の強化などで財源をみつけるかしありません。

社会保障費の削減も資産課税の強化も、政権にとってはリスクが極めて高いため、真剣に向き合うことはしないでしょう。そうなれば、国債発行残高がどんどん増え続け、最後は財政破綻、日本経済の信用の失墜です。マネー市場の強制的、暴力的な調整よって、国債の価値が急落し、つまり国の借金・債務を棒引きされる局面を迎えることになるのです。

放置すれば市場の暴力的な調整も

政治権力がそうした大混乱を避けるために、リスクを負って事前に政策調整するか、ギブアップして市場の暴力的調整に任せるか、その折衷案しかないのです。「2年程度の先送りは日本経済の現状を考えると、やむおえない。2年、経てばなんとかなるさ」という声はあるでしょう。問題は、先送りした後、どうするか。先送りしたほうが、はるかに厄介で始末に悪い問題が待っています。そこに言及しない先送り支持派は、無責任です。

G7サミット(先進国首脳会議)で安倍首相が驚くような発言をしました。「2008年のリーマン・ショック並みの危機が再発してもおかしくない」と述べたのです。議長国の首相が「リーマン・ショック並み」を口にすれば、マネー市場は普通ならパニック売りに走るところです。発言翌日の市場は穏やかです。

「リーマン・ショック」を真に受けた首脳は、いなかったようですね。経済専門家も「年初より世界経済のリスクは和らいでいる。問題は潜在成長率の低さだ」、「リーマン・ショックに似ているというのは言い過ぎだ」といいます。首相が側近の入れ知恵をオウム返しでしゃべったにせよ、恥をかかせた軽率な側近の責任は問う必要があります。

黙殺された「リーマン・ショック」発言

そもそも首相は「アベノミクスは3年を迎え、経済状況は好転している」と、国会で発言したばかりです。黒田日銀総裁も「景気もデフレも改善に向かっている」と、公式の場で述べています。それが突然、「リーマン・ショックの再発も」です。サミット首脳は驚きのあまり、黙殺か無視ということだったのでしょう。リーマンショックは、過熱したマネー市場がバブル化したところで、巨額の住宅ローンの不良債権が連鎖的に破たんし、世界のマネー市場をかく乱したのです。

首相の不用意な失言を責めている場合ではありません。次の出口を考えるべきです。黒田日銀総裁は異次元緩和の出口について、一切、口にしません。金融も財政も出口から遠のいている現状に、日本は危機感を持つべきなのです。

最後に、消費税引き上げがどんどん遅れ、毎年、5兆円もの税収減が続きます。少なくとも、軽減税率は断念すべきです。軽減税率による数千億円以上の減収を止めなければなりません。新聞に軽減税率を適用させるため、生活必需品を含め、軽減税率の導入を主張したことを新聞界は反省すべきです。軽減税率を導入すると、減収の穴埋めのために、基本の標準税率は高め設定する必要が生じます。日本の税制にそんな余裕はなくなりました。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。