選挙の意義をはぐらかす
安倍首相のG7サミット(先進国首脳会議)での振る舞い、消費税引き上げの再延期、同日選挙の扱いなどを見ていますと、民主主義制度や選挙が好きでない人物のように思えてきます。1強政権による強気、高い支持率による自信過剰からか、民主主義社会の基本的なルールよりも、自分の一存を強引に優先させる人物のようですね。
安倍首相は、もちろん民主主義を全面的に否定する反民主主義者ではありません。では民主主義精神を心から尊重するに親民主主義者かというと、そうでもなさそうですね。的確な政治用語が思いあたらないので、非民主主義者としておきましょうか。結論を先に決めて、押し付ける独裁者のタイプが好みのようですね。
サミットの議長会見で、首相は「G7は協調して金融政策、財政政策、構造政策を進め、3本の矢を放っていくことで合意した」と語りました。首相がすがる3本の矢の語源は、毛利元就が3人の子に「矢も3本束ねると、折ろうにも簡単に折れない」と、一族の結束を促したことにあります。
ばらばらでは「3本の矢」とはいえない
あくまでも「3本束ねる」結束に意味があります。サミットでは、「それぞれの国の状況に応じて努力する」、つまりばらばらにやることになったのであり、首相が目指した「各国一斉の財政出動」とはほど遠い結果になりました。サミットでの民主的討議に反するかのように、首相は「3本の矢」という表現に固執しましたね。ルール違反です。
他国の首相を驚かせた「リーマン・ショック並みの危機が再発しかねない」との悲観的な発言は、国内外から不評を買いました。首相は閉幕会見で7回も「リーマン・ショック」という言葉を使ったそうです。サミット宣言文にも、そのような表現は登場しません。これも消費税上げ再延期につなげたいがためのこじつけでしょう。ばかばかしいので、もうまともに論評さえしたくないという人が大半でしょう。
先進民主主義国による自由な討議を差し置いて、自分の都合のいいように、結論を引っ張り出すだすやりかたは、これも民主主義のルール違反ですね。他国の首脳は「開催国なのだから、勝手に言わせておけ」の態度のようでしたね。
首脳のためのサミットに変質
ロシアが抜け、世界秩序の構築に対する影響力が低下し、サミットの地盤が沈下しています。サミットは、「参加国の首脳が自分を国内向けにアピールする場」に変わってきたみたいですね。安倍首相の言動は「首脳のためのサミットへの変質」の象徴でもありました。
サミットが終わり、国内政局に舞台が移り、民主主義的ルールからの逸脱がさらに目立ってきました。消費税の10%引き上げ(当初は15年10月の予定)を17年4月に延期した際、「次は絶対に先延ばしをしないと断言する」、「景気付帯条項もつけていない」と、強調しました。サミットのタイミングに向けて先送りの地ならしをし始めたのは、付帯条項の発動そのものでした。民主主義の基本はリーダーの重みある言葉です。
麻生氏らの異議も意味が不明
リーマン・ショック級の危機は全否定されたに近かったですね。ですから「リーマン・ショックの級の再発」を根拠にした増税延期は無理なシナリオとなりました。麻生副総理・財政相、谷垣自民党幹事長らが「改めて信を問うべきだ」と、声を上げたの当然でしょう。もっとも日経の世論調査では、消費税引き上げ反対が63%ですから、「予定通り17年4月に引き上げ」で信を問うたら、与党は負けたかもしれません。つまり有権者の選択は「増税延期」です。「延期」で信を問えは、もちろん有権者は賛成です。ですから麻生氏らの抵抗が、どこまで政治的な意味を持ったかあったかは分かりません。
米国は「景気が順調に回復しているので、利上げを検討している」と言っているのだし、安倍首相本人も「アベノミクスは成果をあげている」と、述べてきたのですから、有権者の不評を買ってでも、消費税を引き上げるべきだったと思います。首相をためらわせたのは、景気情勢よりも、消費税に対する有権者の反発を恐れたのでしょう。首相は選挙から重要な争点をはずすか、ぼかすことを繰り返してきました。選挙で有権者の選択を仰ぐこと嫌いなのですね。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年5月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。