嫌な空気が漂う中国金融市場

岡本 裕明

昨年夏、そして年初の株式の暴落以降あまり話題にならなくなった中国の株式市場ですが、最近、やや気になり始めました。何かが違う気がします。

マーケットの話をする前にバンクーバーの不動産市場なのですが、以前ほどの勢いがなくなってきています。物件も優良なものはすぐに買い手が見つかりますが、取捨選択しているのか、魅力的ではない物件はなかなか買い手が見つからない状態になってきています。(当たり前の話なのですが、今まではそうではなかったのです。)何時からそんな気配が感じ取られるようになったか、ですが、この数か月、じわじわという実感です。

パナマ文書リークの話題も影響しているかもしれません。香港経由を含め中国系のアカウントが全体の2割近く占めた意味は資金洗浄をかなりの勢いで行っていた実態がばれたとも言えます。しかも文書がリークされたのは数ある法律事務所のたった一つですから氷山の一角だったことも考え合わせると中国のマネーが海外に「ダダ漏れ」状態でその一部が不動産であったり、海外企業のM&Aに向かっていたとも言えるでしょう。

では中国の金融市場です。懸念は二つ。一つは中国元が対ドルで大幅安を演じていること、もう一つは中国株式市場の嵐の前の静けさであります。

まず、中国元ですが、長期のチャートを見ると中国元は6.8元/1ドル程度だったのですが、2010年6月から動き出し、一気に元高が進み、2014年1月に6.03元まで元高になります。ところがこれを境に逆回転し元安が止まらなくなり、現在、6.58元程度まで元安になっています。

特に最近元が大きく下落したのは15年8月と15年12月-1月でいわゆる株価が大暴落した時と符合しています。今回はアメリカの利上げのうわさから中国元が再び売られやすくなっており、この数週間、着実に元安が進んでいます。元の下げ幅は昨年8月や今年の1月の時ほど急激ではないのですが、何時何らかのきっかけで動き出さないとも限りません。

ではもう一つの中国株式市場です。ブルームバーグによると香港に上場する投資信託「CSOP・FTSEチャイナA50ETF」のカラ売りが急増しているとのことであります。同上場投信の空売り比率をチャートで見ると確かに1.3%程度だったその比率が5月に入り6%まで急騰しています。チャートの形があまりにも不自然であるほど急激な変化を見せています。またブルームバーグは他の似た投信にも同じような傾向が見えると指摘しています。

また31日には中国指数先物取引で1分間に10%下落し、すぐに元に戻るという奇妙な動きがあったことが報じられています。可能性は二つで一つは発注を間違えた、もう一つは出来高が薄いマーケットで市場を試している可能性です。同様の動きは5月16日にも別の先物市場で発生しているとのことでその調査結果の発表が待たれるところであります。

そんな一部の市場の動きとは裏腹に上海総合指数は31日には3.3%も上昇、出来高もそれまでの1か月と比べ一気に2倍の2億株以上となっています。香港と深セン市場の「相互乗り入れ」をはやしたものですが、逆に外からのチカラで空売りを誘いやすい状況になったとも言えます。

中国の証券市場は個人が主体で体質が極めて不健全な市場であるため、今後、激しい動きがいつ起きてもおかしくありません。それが経済を反映したものでなくても外からの売り崩しは可能となります。

ここで思い出したいのが1992年のイギリスのポンド危機でジョージソロス氏がイギリスを相手に真っ向の勝負をして20億ドルもの利益を得たとされる歴史的事件があります。国家が金融市場などを通じてある時、急激な変化に巻き込まれることは歴史が何度も語っています。今、中国にその衝撃がないとは言い切れない背景は出てくるかもしれません。そのソロス氏は今年1月に中国のハードランディングを見込み、中国売りを仕掛けるとアナウンスしています。

金融市場に於いて今や国家がどれだけ守ってもヘッジファンドが雪崩の如く一方向の動きを展開させると一気に崩壊させるだけの力を持つことに世の中のいびつさがあるとも言えます。それは時として経済の実態から大きくかけ離れ、増幅された形となり市場心理を煽るということは重々承知しておかねばならないでしょう。

市場は天気と同じで晴れが続いても突然嵐はやってくるもの。一応、中国の動きには気を配っておいた方がよさそうな気がします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月1日付より