6月3日に発表された5月の米雇用統計では、非農業雇用者数は前月比3.8万人増と予想された16万人増を大きく下回り、増加数は2010年9月以来で最少となった。前月分も12.3万人増と速報値の16万人増から下方修正された。
これを受けて3日の米国市場では景気減速が意識されて株式市場はいったん大きく売られたものの、FRBの利上げが先送りされるのではとの思惑で下げ幅を縮小させた。米債は急伸し、米10年債利回りは1.70%と前日の1.80%から大きく低下した。
特に米債の反応が大きいように思われたが、これはFRBのイエレン議長の発言などで6月か7月のFOMCでの追加利上げ観測が強まっていたための反動が起きたとも言える。イエレン議長は5月27日に「金融当局が時間をかけて緩やか、かつ慎重に政策金利を引き上げていくのは適切だ」とし、「恐らくは、今後数か月のうちにそうした行動が適切になるだろう」と述べていた。
さらにこの雇用統計の発表後、FRBのブレイナード理事が雇用統計は厳しい内容だとし、景気回復が確信できる追加データを待つのが有益だと語ったこともあり、急速にFRBの早期利上げ観測が後退したためとみられる。
ブレイナード理事は、米経済基盤の一段の安定と世界的なリスクの後退を示すさらなる証拠が得られるまで政策当局者は利上げを再び見送るべきだとの見解を示し、「経済の回復力があって当然とみなすべきではない」と警告した。さらにブレイナード理事は、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う6月23日の国民投票など重要な下振れリスクが残ると指摘した。(ブルームバーグ)。
イエレン議長をはじめ、地区連銀総裁などが総じて利上げに向けた地均しをこつこつとしていたが、これに対しブレイナード理事は雇用統計の内容に関わらず、慎重な姿勢を取っていたことは確かであろう。
たしかに非農業雇用者数の増加数に関しては、イエレン議長としてもネガティブ・サプライズとなったかもしれない。注目された6日のイエレン議長の講演では、27日の発言時のような具体的な利上げ時期は明示せず、先週の雇用統計は、がっかりさせる内容だったとの発言もあった。ただし、単月のデータを過度に重視すべきでないとも強調しており、引き続き緩やかな追加利上げが適切になるとの認識を示した。
5月の失業率は前月比0.3ポイント低下の4.7%と予想外の改善を示すなど必ずしも悪い数字ばかりではない。非農業雇用者数の数字だけをみて急に方針を転換することはむしろ考えづらい。
ただし、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う6月23日の国民投票の結果次第では新たなリスクが生じる懸念はある。このため、6月14日、15日のFOMCでの利上げの可能性は薄れ、7月のFOMCで利上げを模索してくる可能性はある。もしかすると議長会見が予定されていない7月に臨時の会見を行う可能性もあるかもしれない(それが可能であるのかどうかは不明)。
そしてもうひとつ興味深いことも発表されている。イエレン議長は8月末にワイオミング州ジャクソンホールで開かれる年次経済シンポジウムに出席し講演を行うそうである。イエレン議長は2015年には参加を見送っていたが、これは2006年6月以来、9年半ぶりとなる利上げに備えたものとの見方もあった。
2013年9月のジャクソンホールにバーナンキ議長は異例とも言える欠席をしたが、これはテーパリングの決定を控えて、言質を取らせないようにするためとも言われていた。当時の副議長が現在のイエレン議長である。
つまり今年は何かしら慎重に事を進めるべき年ということではない、との見方もできるのではなかろうか。米大統領選の行方なども気掛かりながら、時間をかけて緩やか、かつ慎重に政策金利を引き上げていくというFRBの姿勢に変化はないとみられる。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年6月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。