原油価格暴落:過去事例と今回の違い

6月8日に発表された ”BP Statistical Review of World Energy June 2016” (「BP統計集2016」)には、同社社長のボブ・ダドレィの前書き(Group chief executive’s introduction)に加え、発行責任者である同社グループ・チーフ・エコノミストのスペンサー・デールの小論が添付されている。”Energy in 2015: A year of plenty(2015年のエネルギー:豊穣の年)” と題するものだ。小論といっても、z全文20ページからなる、読み応えのある立派な論文だ。

本来なら論文全文を読み込んで、ここにその要旨を紹介すべきなのだろうが、衝撃を受けた箇所があるので、少しでも早く皆さんにお伝えしたいと思い、このブログを書き始めている。

デールは「石油」を分析した箇所の最後に”Past episodes of large oil prices falls (過去の大幅石油価格下落のエピソード)” というタイトルのグラフを示し、本文で次のように解説しているのだ。

・今回の下落は、80年代半ばのもの(逆オイルショック)に似ている。

・2008/09年(リーマンショック)や1997/98年(アジア経済危機)の時のものとは異なる。

・08/09年および97/98年の場合は、需要減が原因だったが、比較的短期間で回復した。

・80年代半ばのものと異なる点も多々あるが、共通しているのは供給増に原因があるということだ。

・80年代半ばには、北海およびアラスカという新規供給ソースの出現があった。

・今回は、シェールオイルだ。

・だから今回は、Bobが「前書き」で示唆しているように、低価格が長く続いている。

添付されているグラフを見ると、それぞれ価格下落が始まってから、どのように価格が推移したかがわかるようになっている。目盛を5年しかとっていないのが残念なのだが、言わんとすることは容易にわかる。
グラフを大雑把に読み取ると次のようになる。

・1年で35%ほど下落した97/98年(アジア経済危機)の時は、2年強で下落開始時水準に戻り、その後さらに40%ほど上回り、5年目には20%ほど上回った水準となっている。

・やはり1年で35%ほど下落した08/09年(リーマンショック)の時は、2年半ほどで回復し、その後は5~10%ほど上回って推移している。
(つまり、需要減が原因で発生した価格暴落は、ともに短期間で回復している、というわけだ)

・ところが1年で50%下落した80年代半ば(逆オイルショック)の時は、2年目には▲35%程度にまで戻したが、3年目にはもう一度▲50%ほどとなり、5年目にもまだ▲25%程度で推移したままだ。つまり5年たっても下落開始時には戻っていないのだ。念のためにBP統計集を見ると、下落開始の1985年水準に戻るのは、2000年代半ばになってからだから、なんと20年もかかっている。

・そして今回、1年目に▲50%程度下落した後、2年目(おそらく2016年の1~5月平均)にはさらに▲60%強にまで下落している。3年目以降はこれからだが、2014年水準に戻るのは相当先だ、と示唆しているようだ。

なるほど。
実は6月10日発刊の『原油暴落の謎を解く』の中で、過去の暴落事例を取り上げているのだが、筆者は「今回の下落は逆オイルショックとは様相を異にする」と判断しているのだ。逆オイルショックの時は石油需要のみならずエネルギー需要全体が大きく、長期間落ち込んだのだが、今回は石油需要もエネルギー需要全体も。まがりなりにも年々増加している過程で発生しているからだ。

デールは供給サイドに目を向け、逆オイルショック時と今回の下落が似ている、だから長期間価格が低迷している、と分析しているのだ。

筆者も、原油価格がこれから暴落開始時(2014年)のレベルにまで戻ると考えてはいない。筆者の将来価格予測については『原油暴落の謎を解く』をお読みいただきたいが、その意味ではデールと判断が異なっているわけではなさそうだ。

さてと、残りの11ページを読まなければ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月12日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。