ども宇佐美です。
パチンコ不正改造問題に関していろいろと大きな動きが起きつつありますので、 少し間が空きましたが、前回の続きを書きたいと思います。ある程度これまでの議論を前提にした専門的な内容になりますが、ご容赦くださいませ。
先に今回述べる内容をザクッと書きますと、
①河野大臣の英断と不正改造機の撤去
②役物比率の不正操作は常習賭博問題である
③責任論と日工組に求めること
の三点になります。
1.河野大臣の英断と不正改造機の撤去
(https://www.taro.org/ より)
まず不正改造機の撤去問題についてですが、詳しくはすでに他のメディアでも伝えられているとおり、河野太郎大臣が英断を下しました。
具体的には5月30日の夕方5時に日工組、全日遊連、日遊協というパチンコ業界の主要団体を警察に呼び出し、「6月末までに回収対象機リストを発表して、年内にすべての不正改造機を撤去」するように厳命したようです。これまでの「お願い」や「要請」とは意味合いが全く異なるので、仮にこの指示に逆らい不正改造機を用いてホールが営業を続けるようなら警察から検挙されることになるでしょう。追加的に警察庁生活安全局保安課から出された講話でもそれを匂わせる発言がなされています。
これ以来パチンコ業界は大混乱に陥っているのですが、この処置は4月27日の国会内閣委員会における高井たかし議員の質問に対する河野太郎大臣自身の
「違法な機械が大量に出回っていたわけでございますから、かなりの量があるというふうに承知をしておりますので、一遍にというわけにはいきませんが、これは最大限速やかに撤去するというのは当然のことだと思いますので、団体にもきちんとそれはやらせるように指導してまいりたいと思っておりますし、今後は、まず、機構にきちんと抜き打ちでチェックをしていただいて、違反があれば、先ほど申し上げましたように、メーカーに対しては型式検定の取り消し、ホールに対しては営業停止を含む行政処分を科すという警察の意思を明確に出していきたいというふうに思っております。」
という答弁に基づくものと思われ、河野大臣はまさに本人のHPにあるとおりに「信念を貫いて」自分で言ったことをきちんと守った形です。
以前も述べた通りパチンコ業界が不正改造問題についてはサボタージュを決め込む中で、国会での議論を通してこれだけ事態が打開されたのは、民主主義の本分とも言えるところで、正直なところとても嬉しくまた安心しています。質問をした高井たかし議員と併せて河野大臣は、ギャンブル依存症問題の政治史に名を刻むことになるでしょう。
これからのスケジュールとしては「①6月中に撤去対象機のリスト発表され撤去対象機が確定し、
②その後年末にかけて迅速に撤去が始まる」ということになります。これに関して、業界が撤去対象機を極端に絞り込むようなことや、年末スレスレまで撤去対象機を運用しようとするようなことがあってはならないと考えています。
また追加的な論点として、撤去は当然のことながら、それにとどまらず併せてきちんとした再発防止策を業界に取らせることが重要になってきます。
2.役物比率の不正操作は常習賭博問題である
さてここで不正改造問題の再発防止策を論じるにあたって「そもそも不正改造の何が問題だったのか」ということを考える必要性があります。
そうでなければ必ず「釘を曲げたってお客さんも楽しんでいるし、実態的に何も問題が起きてないではないか」と考えて、必ず同じこと(釘を曲げてギャンブル性を向上させる)をするホール・メーカーが現れることになってしまいます。この問題に関する私の見解は「不正改造により射幸性をあげたことで、パチンコが賭博の領域に踏み込んだ」ということです。
上記リンクは風営法認可業種と常習賭博との関係について裁判所が判断を下した非常に有名な判例です。この判例の中では風営法の認可業種の一部(この判例の場合は射的)に関しては
「営業者と客とが偶然の勝負によつて財物を賭ける」
という意味においては賭博の性質を帯びていることを認めた上で、
「公安委員会が特に許可した理由は、①その方法にいくつかの制限を設けこの条件の範囲内において行うならば②一時の娯楽に供する物を賭ける場合にあたると認めたものと解するのが相当」
として、その適法性を認めています。パチンコもこれと同じ理屈でこれまで「ギャンブル性はあるが、風営法の許可条件に従っている限りは『一時の娯楽に供する物を賭けたにすぎない』のであり、常習賭博としての刑法の取り締まり対象ではない」と扱われてきました。
他方でパチンコ業界は今回、単に風営法に定める営業許可条件を破ったにとどまらず、警察の度々の注意を無視して”常習的に”役物比率の不正操作を通じて遊技機の射幸性自体を違法な水準まで引き上げて営業しました。これは風営法・一時の娯楽の枠を超えてもはや常習賭博の領域に踏み込んだと考えるべきでしょう。少なくとも私達はそのような見解を有しており、なるべくなら司法の場でこの見解の正当性を明らかにしたいと思っています。
少し話題が逸れましたが、そんなわけで私達は今回の問題は「釘の問題」と捉えて矮小化するのではなく、「遊技と賭博の線引きの問題(賭博問題)」と捉えてしかるべき再発防止策をとるべきと考えています。従って対策のあり方は「クギを曲げさせない」という瑣末な観点にとらわれすぎず、クギ曲げは役物比率を不正に操作して射幸性を上げるために行われたのですから、「役物比率、ひいては射幸性規制の違反をさせない」ということに主軸に置かれるべきと考えています。
そうなると当ブログで度々述べている通り、再発防止策の本丸は「役物比率メーターの設置」ということになるわけです。それが行われなければ、一時的にクギ曲げ行為がなくなったとしても、時を経るとその本旨が忘れられ、将来的にホールがまた少しずつクギをつづくようになり、すると今度はメーカーがホールによる改造を前提に遊技機を設計し始め、またパチンコの賭博化の道を歩むことになるでしょう。なんせこの業界はその繰り返しなんですから。そのようなわけで、
「役物比率の不正操作は常習賭博問題である」
との認識の下で業界を挙げての役物比率遵守に向けた対策が早急にとられることを期待しています。特に2016年後半に設置される新台については役物比率メーターが全台に設置されることを強く期待しています
なおこの役物比率メーターの設置については3月に警察からの要請がパチンコ・パチスロ業界に出されているのですが、曲がりなりにも法律の範囲で機器を開発してきたパチスロ業界がこれを早急に受け入れ、一方違法な不正操作を続けてきたパチンコ業界が設置を渋っているというなんとも滑稽な状況にあります。
3.責任論と日工組に求めること
さてここまで業界の総論について述べてきましたが、最後に新台の動向から見る一連の問題に関する業界内の責任論に関する私見と日工組に求めることについて述べておきます。
上の動画は私がサミーの新台である北斗無双を適当に打ってみた動画です。(例によって新宿歌舞伎町のの日拓エスパスさんで打ちました。なおあっという間に大当たりしています(笑))
6分半ほどありますが、正味の試射時間が4分弱でこの間に一般入賞口に10発の玉が入りました。これで最近のトレンドに従って100発当たりヘソが7回転程度すると考えると概ねベース*は30近くは出ており、適法水準スレスレのスペックを彷徨う台(適法とは言い切れない)と考えられそうです。 他方で先日同じ店で売った同じシリーズの旧機種は役物比率規制に違反している可能性がかなり高いもので、こちらはもう一度打ってみてもほぼ同様の数値がでました。
*:通常時の100球あたりの獲得球数。役物比率の対になる概念。
サンプル数が少ないという問題はありますが、同じ店で同じメーカーの発売時期が異なる同シリーズ機種を打ってかなり違う性能が出たのですから、メーカーの開発の方向性が変われば、ホールの状況は大きく変わるという現実が垣間見えたのではないかと考えています。逆に言えばこれまでの不正改造問題についてもホールはメーカーの射幸性の高い遊技機の開発にひきづられて違法営業をせざるを得なかったという側面が強く、過去にも述べましたが半ば加害者、半ば被害者という微妙な立ち位置にあることが改めて確認されたのではないかと思っています。(もちろんそれで責任が免除されるわけではありませんが。)
過去のことを議論するのは無駄かもしれませんが、仮に遊技機の開発が射幸性を下げる方向に進んでいれば、利益調整因子として釘の操作を認めたとしても、ホールは違法な水準にまで射幸性を高めずに十分営業ができた可能性が高い、ということなのではないかと思っておりまして、やはりこの問題に関する一番の責任はパチンコメーカーにあるのではなかろうか、というのが”私の”意見です。
そんなわけでパチンコメーカーは一番の責任者として不正改造問題に向き合い、責任ある撤去の体制、新台開発方針を主導して取っていただきたいと思っております。
6月にはパチンコ業界の業界団体である日工組から撤去対象リストが発表されることになるわけですが、その際に
①2015年以前開発のフィーバー機全機種の撤去
②新台における役物比率メーターの設置
が発表されることを期待しております。また仮にそれが発表されなければ、私達としても引き続き何らかの手を打っていかなければならないと考えていることを合わせて申しておきます。
ではでは今回はこの辺で。
編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2016年6月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。