料理の腕は完璧だが人生は挫折続きのシェフの再起をかけた奮闘を描く「二ツ星の料理人」。芸術的でおいしそうな料理は登場するが、本作はグルメ映画というより、むしろ、自己中心的で欠点だらけの人間が周囲の声に耳を傾け、レストランで料理を作る上で大切なチームワークを学んでいく人間ドラマだ。アダムが天才シェフであることは自分自身も周囲も知っている。だが、戦場のような厨房で働きながらスタッフをまとめ、料理評論家を納得させるには、人間的な成熟こそが必要なのだ。ここまでミシュランの星に執着する思いは、欧米の料理人でないと、正直、実感がわかないのも事実。ただ、厨房での無駄のない動きや真剣なまなざしに、料理にかける熱い思いが伝わってきた。
アダムの過去のトラブルの顛末や、娘の誕生日にさえ休みを与えないアダムになぜかエレーヌが惹かれていくなど、ストーリーとしては少々ご都合主義が目につく。はたしてアダムの店は三ツ星を獲得できるのか? それは映画を見て確かめてもらうとして、ライバルの声に耳を傾け、スタッフが作るまかない食を素直に食べるアダムに、シェフとしてだけではなく、人間としての成長がうかがえるラストは、悪くない。今が旬のイケメン俳優ブラッドリー・クーパーが主役であることに加え、国際派俳優のダニエル・ブリュールやオマール・シー、オスカー女優のアリシア・ヴィキャンデル、エマ・トンプソンら共演者が非常に豪華なことも見逃せない。
【60点】
(原題「BURNT」)
(アメリカ/ジョン・ウェルズ監督/ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、オマール・シー、他)
(グルメ映画度:★★☆☆☆)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年6月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。