英国、国民投票でEU離脱へ

昨日(6月24日)午後2時、夜8時から放映予定の『アゴラ 言論アリーナ』の収録を行った。原則は生放送なのだが、参院選対応でスタッフのやりくりができないとのことで、放映予定の6時間前に収録する必要が生じたそうだ。

前23日に行われた英国「EU離脱」の国民投票の開票結果が徐々に明らかになる頃なので、微妙な時間帯だなと思いながら収録会場に赴いた。ところが筆者より少々遅れて到着した経済ジャーナリスト・石井孝明さんの第一声が「EU離脱になりましたね!」だった。予想していたより早めに、BBCが「離脱確定」とのニュースを流したのだ。

何だかんだ言っても、経済合理性を考えたら「残留」だろうと予測していたので、不意を突かれた感じだった。

収録では「経済的メリットより『英国の独立』を選択した結果でしょう」とコメントしたが、頭の中では「これからどうなるのだろうか?」との疑問がクルクル回り続けていた。

石井さんのナビゲートに従い、どうにか『原油価格、乱高下の謎を解く』と題した収録を終え、帰路に着いた。だが、クエッションマークは依然として頭の中でクルクル回っていた。

本件については6月6日の弊ブログ「#196 Brexitと原油価格」で、「通貨価値、経済成長へ影響が出て、それが原油価格にどのような影響するか」ということで「直接の影響はないだろう」と書いている。

昨24日の市場では、WTIもブレントも約5%の下落を見せた。終値はWTIが47.64ドル、ブレントが48.41ドルだった。ポンド安=ドル高の影響だろうか。あるいは、景気減速=需要減と読んだのだろうか。

今朝、欧米の主要メディアはどう報じているのだろうかと検索してみたが、世界は新たな「不確定の時代」に入った、EU離脱ドミノ現象は起るのか、スコットランドは英国からの離脱を再度求めるのでは、等が報じられており、石油市場に与える影響というニッチな観点の報道は見当たらなかった。

さらに追いかけてみると、米国のHart Energy社が発行している “Oil and Gas Investor” が、「石油需給および価格に関する5つの質問と回答」という記事を掲載しているのを発見した(”Brexit’s five questions and answers for oil demand, supply and price” June 24, 2016 1:59pm)。

記事を読んでみると、幅広いエコノミストやオイル・アナリストに取材し、網羅的に報じているもので、もっとも興味深かったのは「英国のEU離脱により長期的に価格は下落するか」という質問に対し、エコノミストは「Yes」、アナリストは「No」と応えている箇所だった。

エコノミストは、今後の見通しがきわめて不透明になったことにより、世界景気の減速は免れない、ドミノ現象が起こればさらに不透明となり、不況は長期化する、したがって石油需要が減少するので価格は下落する、と判断している。

一方のオイル・アナリストは、通貨価値、世界景気への影響がないとは言わないが、需給を含む基本的な石油市場の構造は不変だ、リバランスへの道筋に影響はなく、長期的に価格が下落することにはつながらない、と主張しているのだ。

これを読んで、筆者もアナリストの一員だな、と妙な納得をした。
それにしても昨日の一連の動きは「事実認識ではなく、将来の予測が価格を動かす」いい事例だったのだが、番組中は思いが至らず、指摘できなかったのが残念だ。

事実としては、英国民は投票で「EU離脱」に賛成した、だが、「離脱」に関わる諸手続きはこれからで、「離脱」するまで少なくとも2年はかかる、昨日の時点では英国は依然としてEUの加盟国であるということに変わりはない。だが、人々は将来どうなるかを予測し、迷いながらも売ったり買ったり、投資決断をしたり、各種の経済活動を行っているのだ。

石油価格は、市場参加者が需給バランスをどう予測するかで動いていく、という結論は不変だな。ファクターが多すぎて容易には判断できない、というのも不変だけどね。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月25日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。