6月30日に発表された5月の全国消費者物価指数は総合で前年比マイナス0.4%、生鮮食料品を除くコア指数で前年比マイナス0.4%、食料及びエネルギーを除くコアコア指数で前年比プラス0.6%となった。電気代やガソリン代が下落に寄与した。
日銀が目標とする物価指数は全国消費者物価指数の総合であり、目標の前年比2%からますます遠ざかりつつある。これは2年も前の消費増税による影響とか、原油安の影響を大きく受けたからという判断をするよりも、マネタリーベースを倍以上に増やしても何ら物価に効果がなかったことを認識すべきであろう。
難しいことは承知ながらも、日銀は国債買入が困難となる前にマネタリーベースを政策目標から外し、大量の国債買入の見直しを行うべきではないかと思われる。それでも続けるのであれば、なぜこれだけマネタリーベースが膨れあがっているのに消費者物価指数の前年比がマイナスになっているのかを具体的に説明する必要がある。
その日銀が発表した日銀短観はヘッドラインとなっている大企業・製造業DIがプラス6となり、前回から変わっていなかった。3月より悪化との予想が多かっただけに意外感もあった。ただし、注意すべきは事業計画の前提となっている2016年の想定為替レート(大企業・製造業)が111円41銭となっていたことである。3月の117円46銭に比べると円高とはなっているものの、23日の英国ショックにおける100円割れの水準を織り込んでいない。
日銀は回収基準日の6月13日までに7割強を回収、英国EU離脱が決まった24日までにはほぼ回収が終了しており、英離脱の影響は織り込まれていないと解説したそうである(ロイターの記事より)。
そして大企業・製造業DI以外をみると、製造業では中堅、中小企業ともに3月より悪化しており、非製造企業は大企業含めてすべて悪化していた。これらは4月の熊本地震による影響もあったとみられるが、ここにもし100円を割り込むような円高を見ていたとするとさらなる悪化も予想されたのである。
イングランド銀行のカーニー総裁は30日、国民投票でEU離脱が決まったことで、景気の見通しが悪化したとして、夏場にかけて追加の金融緩和が必要となる公算が大きいと述べ、来月までに追加の金融緩和に踏み切る可能性を強く示唆した。具体的には2009年3月以来となる政策金利(年0.5%)の引き下げか、2012年7月以来となる量的緩和の規模の拡大などを検討するとみられる。
そして英国のEU離脱が決まったことで急激な円高も招き、ドル円は一時99円台をつけた。その後リスク回避の動きは沈静化しつつあるが、ドル円は戻ってきたといっても103円台である。日銀の臨時会合の観測はさすがに後退したものの、政府の経済対策にも合わせて今月28、29日の金融政策決定会合で追加緩和を期待する向きも多い。しかし、日銀に何ができるのだろうか。
マネタリーベース増加による物価上昇に疑問符がつき、国債買入も限界に近い。すでに長期金利は異常な水準に低下しており、効果も疑問視され、評判の良くないマイナス金利の深掘りにも無理がある。質と称してのETFなどの買入増額はまさに株価対策と見られかねない上に、こちらもマーケットの規模からは限界がある。このような状況下、いったい日銀には何ができるのであろうか。しかし、物価や景気を取り巻く環境はあまり良いとはいえない。日銀は戦略を大きくあらためることも必要になってくるのではなかろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年7月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。