テンギス拡張投資決断は会社、国家両方に恩恵あり

昨日の弊ブログ「#213.シェブロン:370億ドルの拡張プロジェクトを承認」の後続記事がFTに掲載された。”Chevron and Kazakhstan see mutual benefits to oilfield expansion” (July 6, 2016 10:18am) と題する記事で、Jack FarchyとEd Crooksの連名だが、昨日のものとは逆にJackの名前が先に来ている。この順番は、主要部分を書いたのは前者だ、ということなのだろうか?

それはさておき、この記事は石油開発という事業の本質を理解するのに役立つ内容を多々含んでいるので、ここに紹介しておきたい。テンギスは超巨大プロジェクトだが、本質的には、在来型であれば中小のプロジェクトでも同じなので、ぜひご理解いただきたい。

記事は、今回のシェブロンの投資決断は、低迷する石油開発への投資が再開するサインではない、極めて特殊な要因を含むもので、メガプロジェクトが抱える危険の種を孕んでいる、と始めている。おそらくこれがこの記事のポイントなのだろう。
その上で、テンギス・プロジェクトの特殊性を次のように説明するところから始めている。

シェブロンは、ソ連が崩壊する前からロビーイングを開始し、1993年に260億バレルと見積られる、世界最大規模の埋蔵量をもつテンギス油田の開発権益を獲得した。専門家であるDominic Lewenz(Frontier Advisory)は「シェブロンにとってはドル箱」「20年前のこの賭けは大成功だった」と述べている。

テンギスはシェブロンにとって極めて重要で、2015年の石油の保有埋蔵量の27%、ガスの8%、石油・ガス生産量の13%を占めている。生産コストも石油換算バレルあたり4.32ドルで、米国における平均16.60ドルのほぼ4分の1でしかない。2015年には全利益の42%に相当する19億ドルをもたらしている。

このように重要なものなので、契約が2033年に終了することがぼんやりした懸念事項になっている。何十年も継続するテンギスのような巨大プロジェクトにとっては、2033年はすぐに到来する。

公式には、今回の「拡張プロジェクト」と契約の延長とは無関係だが、いい結果を導くだろうと業界関係者(Observers)は見ている。シェブロンも「今回の投資決断はプロジェクトが成功することを目指すもの」「延長問題は、しかるべき時期に討議されるだろう」と両者を結びつけることを拒否している。

2022年以降に増産効果が現れる今回の投資決断は価格リスクを抱えている。「lower for longer(低価格が長期に続く)」と見るアナリストがいる中で、プロジェクト関係者が「50ドルが損益分岐点」というのであれば、驚く程の利益をもたらすことはなさそうだ。

シェブロンにとって重要な今回の投資決断は、カザフスタンにとっても非常に重要なものだ。

テンギスは2014年に112億ドルの税収等をもたらしたが、これは2015年の政府支出の4分の1に相当する。コンソーシアム会社であるTCOによれば、税収や利権料(Royalties)に加え、国営石油の配当金、カザフ人従業員の給与、あるいは現地企業への資機材代金などで、1993年の創設以来1120億ドル(11兆円以上)をカザフスタンに供している。

さらに今回、local content(現地手当分)を32%とすることでコンソーシアム参加企業は合意しているので、368億ドルの3分の1程度が現地企業に支払われることになる。

戦略的にも、カザフスタンが200万バレル/日以上の生産を達成し世界の主要産油国の仲間入りするためにも、困難続きのカシャガン油田ともども、テンギス拡張が成功裏に遂行されることが極めて重要になっている。

カシャガンの立ち上がりが遅れ、油価低迷により経済は苦境に陥っているため、IHSのMatthew Sagersは「カザフは何かが成功することを強く求めている」という。このところ抵抗運動にさらされているナザバイェフ大統領(25年間この地位にある)にとって、今回の投資決断はいいニュースだ。

Dominic Lewenz(Frontier Advisory)は「ナザバイェフは何か目指すものを必要としている。彼はシェブロンと共にあり、シェブロンは彼と共にある」と述べている。

あれ?
この最後の文章の意味するところは何だろうか?
ナザバイェフが倒れたら、シェブロンも苦境に陥る、と言いたいのだろうか?


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月7日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。