【映画評】AMY エイミー

AMY エイミー(オリジナル・サウンドトラック)
類まれな歌声を持つ天才シンガー、エイミー・ワインハウスは、10代から頭角を現し、20歳で発表したアルバムが世界的な大ヒットとなる。個性的なファッションと抜群の歌唱力でセレブリティとなったエイミーだが、私生活は、激しい恋愛関係、アルコール、ドラッグなど、スキャンダラスな言動で世間を騒がせていた。2011年7月23日、27歳の若さで急逝したエイミーの人生を、彼女を知る人物のインタビューや貴重なプライベートフィルム、未公開映像を交えて映し出していく…。

 

2011年に27歳の若さで亡くなった歌手エイミー・ワインハウスの伝記ドキュメンタリー「AMY エイミー」は、アカデミー賞で長編ドキュメンタリー部門に輝くなど、高い評価を得た記録映画だ。アシフ・カパディア監督は、この希代の歌姫の14歳のプライベートフィルムからスタートし、栄光と転落を時系列にそってオーソドックスに描いている。私自身、エイミー・ワインハウスのことはほとんど知らず、大ヒット曲「Rehab」だけはさすがに知っているが、個性的なメイクやファッションに身を包んだ、やたらと歌が上手い女性歌手…というくらいの知識しかない。だからこそ、少女時代から順番に描かれるわずか27年間の、絵に書いたような転落人生が腑に落ちた。両親の離婚、ヤク中の恋人とドラッグ漬けの日々、自分を捨てた父への思慕、その父から利用、搾取され、薬物依存でリハビリ施設へ入所…。歌は上手だが生きるのがあまりに下手な彼女は、世界的成功に押しつぶされた、普通の女の子だ。憧れの人、トニー・ベネットに会ってデュエットするときの、少女のように嬉しそうな顔がきっと等身大で素のエイミーなのだろう。

ゴシップに飢えた大衆の犠牲者でもあり、あまりに弱く自分から壊れていったエイミーにとって、幸せとは何だったのだろうか。「私はただ歌いたいだけ」と言ったエイミーには、天賦の歌声が引き寄せる成功の誘惑と虚栄はあまりに重荷だったとしか言いようがない。それにしても才能あるシンガーは、なぜ27歳でこの世を去るのか?!有名どころでは、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーンらがそう。哀しいことに、エイミー・ワインハウスもまた、この系譜に連なってしまった。破滅型の天才シンガーを描くドキュメンタリー映画としてはオーソドックスすぎて新味はないが、ただ歌を愛し、自分を愛してくれる人を求めた女性の物語として心に響く。
【65点】
(原題「AMY」)
(英・米/アシフ・カパディア監督/エイミー・ワインハウス、ミチェル・ワインハウス、ジャニス・ワインハウス、他)
(生き急ぎ度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。