共和党全国委員会は、筆者が懸念していた米国版BREXITこそ回避しつつ波乱の幕開けとなりました。
”良心条項”が取り下げられたとはいえ、反トランプ勢力はひるまず。テッド・クルーズ候補支持だったマイク・リー米上院議員(ユタ州)をはじめとした共和党員が「roll call vote!(出欠採決を!)」を旗印に自由投票を勝ち取るべく議事妨害という秘策に打って出るとは、誰が想像したでしょうか。呆気なく発声採決で却下されたものの、コロラド州代議員が退場するなど、会場は一時騒然としたものです。
それだけではありません。
不動産王ドナルド・トランプ候補の妻、メラニア氏の演説が2008年のミシェル・オバマ夫人によるスピーチの盗作(plagiarize)だとするヘッドラインが、メディアを埋め尽くしたものです。問題の内容は、こちら。
ミシェル版「… Barack and I were raised with so many of the same values: that you work hard for what you want in life; that your word is your bond and you do what you say you’re going to do; that you treat people with dignity and respect, even if you don’t know them, and even if you don’t agree with them,”
“And Barack and I set out to build lives guided by these values, and pass them on to the next generation. Because we want our children — and all children in this nation — to know that the only limit to the height of your achievements is the reach of your dreams and your willingness to work for them.」
メラニア版「From a young age, my parents impressed on me the values that you work hard for what you want in life, that your word is your bond and you do what you say and keep your promise, that you treat people with respect,”
“They taught and showed me morals in their daily life. That is the lesson that I continue to pass along to our son. And we need to pass those lessons on to many generations to follow because we want our children in this nation to know that the only limit to your achievements is the strength of your dreams and your willingness to work for them.”
ざっくり訳すと「ありたい姿に向け勤勉に働き、有言実行に努め、かつ夢の実現までの距離こそが限界であり意欲を持って突き進むことが必要」とのメッセージです。普遍的な言葉ではありますが、ここまで表現が近いと疑惑が浮上してもおかしくありません。
もちろん、トランプ陣営のほかトランプ支持派であるニュージャージー州のクリス・クリスティー知事は盗作疑惑に対し「あり得ない」と全面否定しています。
メラニア夫人、清廉なるホワイト地に袖もとのアクセントが引き立つロクサンダ・イリンチックのドレスで全米の女性の視線を釘付けにしたものの、スピーチでツチをつけてしまいました。ちなみに、お値段は2190ドル(約23万円)也。ロクサンダはセルビア出身のデザイナーであり、メラニア夫人の出身地であるスロベニアとかつてユーゴスラビアという国を形成していましたよね。そういえば、トランプ候補はクリントン政権時にNATOがセルビアを空爆した問題を取り上げ舌鋒鋭く批判していましたが、奥方の存在が大きいのでしょう。
メラニア夫人、トランプ候補ご自慢の奥様。
(出所:AP via WSJ)
悪いことは続くものです。場外ではスティーブ・キング下院議員(アイオワ州、6期)が党大会の実況中に「どの『サブグループ(下位集団)』が白人より文明に貢献したのか」と発言する始末。なぜ高齢の白人層が党大会を埋め尽くしたのかという質問に対する回答とはいえ、キング議員が生出演していたリベラル系の放送局MSNBCの司会者、クリス・ヘイズ氏をして「民主主義が花開いた文明を築いた半面、ヒトラーやスターリンを生んだものだが」と言わしめたものです。
共和党寄りのCNBCですら、「ドナルド・トランプは初日に必要なことを成し遂げられなかった。あと3回のトライを残す(Donald Trump did not get what he needed from the first day of his convention. He has three more tries)」と報じるほど。共和党の迷走は19日以降、収束するのでしょうか。
(カバー写真:AP via Wtop)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。