IMFは見通し下方修正、BREXITが背景

IMF見通し修正

国際通貨基金(IMF)は19日、最新版の世界経済見通し(WEO)を公表しました。タイトルに「BREXITを経た不透明性(Uncertainty in the Aftermath of the U.K. Referendum)」を掲げるように、2016年の世界成長見通しを3.1%増と前回4月の3.2%増から下方修正2017年も従来の3.5%増から3.4%増へ引き下げました。

今回は前回に続き先進国全体では下方修正された一方、エマージング国全体では据え置きでした。また上方修正された年についても、先進国とエマージング国ともに1月の水準へ戻した程度にとどまります。先進国を中心に各国別ではBREXITの余波から英国、銀行の不良債権問題を抱えるイタリアが2016~17年ともに下方修正。米国や日本、ドイツなど他主要国はどちらかにとどまりました。

IMFは、リスクに対し以下を挙げています。

1)BREXIT問題
2)イタリアとポルトガルの銀行(世界金融安定報告で指摘済み)
3)中国の構造改革(内需主導型経済への移行にかかる調整)
4)原油生産への依存度が高い国での財政問題
5)先進国での保守化、移民などの政治問題
6)中東を中心とした地政学的リスク
7)南米やカリブ海地域で蔓延するジカ熱問題

前回はエマージング諸国や金融市場の動向に力点を置いていたものの、より先進国へ軸を移していました。

国・地域別でみると、米国は2016年につき前回4月の2.4%増から2.2%増へ引き下げています。2017年は、従来の2.5%増で据え置きました。2016年を下方修正したもののドル高、原油安に伴う同関連の設備投資減速といった悪影響は減退し、BREXITの影響も比較的限定的で、利上げも非常にゆるやかなペースとなる見通し。社債スプレッドの拡大やドル高、信頼感の低下を相殺すると見込んでいます。

英国は、2016年と2017年をそろって下方修正しました。2016年は従来の1.9%増から1.7%増、2017年に至っては従来の2.2%増から1.3%増へ大きく引き下げられています。申し上げるほどもなく、4月に想定していなかったBREXITを通じ不透明性が高まったためです。

ユーロ圏は、2016年につき従来の1.5%増から1.6%増へ上方修正され1月の予想水準へ戻しました。2017年は反対に従来の1.6%増から1.5%増へ下方修正。BREXITがなければ2017年も引き上げられるはずでしたが、消費者や企業の支出に影響を与えかねないと指摘。銀行の不良債権問題が下方リスクとの懸念も寄せています。

日本は2016年につき従来の0.5%増から0.3%増へ下方修正した半面、2017年は従来のマイナス0.1%から0.1%増へ上方修正されました。2017年の引き上げは消費税増税の先送り(2017年4月→2019年10月)が背景。ただし、円高加速局面では経済を押し下げると指摘し、2016年の引き下げも円高効果によるものと分析しています。補正予算が2016年の成長を押し上げる期待がある半面、円高を阻止する介入に対してIMFのチーフエコノミスト、オブストフェルド氏は「必要もしくは有効な手段とみていない」と発言。アベノミクスの3本の矢、賃上げのインセンティブなどで対応可能とまとめました。

中国は、前回に続き一部とはいえ上方修正されています。2016年は従来の6.5%増から6.6%増へ引き上げられました。2017年は従来の6.2%増で維持。25年ぶり低水準だった2015年の成長率6.9%から一段の減速が見込まれている状況に、変わりありません。輸出・投資主導型成長モデルから消費・内需主導型へシフトする過程でのリスクにも引き続き注意を払いつつ、5回にわたる利下げ財政拡大策が経済を支援し、BREXIT問題も英国へのエクスポージャーが低いため影響は限定的と指摘する。ただし、欧州の経済が落ち込めば中国にマイナスの効果が直撃するリスクがあるとも付け加えた。

世界貿易動向では、2016年につき従来の3.1%増から2.7%増へ下方修正。2017年は逆に従来の3.8%増から3.9%増へ引き上げました。2015年が2.6%増とあって、2016年と2017年に改善を見込んでいます。先進国で2016年につき2.7%増(従来は3.1%増)、2017年は3.9%増(従来は3.8%増)、エマージング国では2.6%増(従来は3.0%増)、2017年は3.9%増(従来は3.8%増)でした。

WEOのまとめ役であるモーリス・オブストフェル主席エコノミストは、結果を受けて「英国民投票直前までは、世界経済見通しの引き上げで準備していた」と明かします。しかしながら、「仕事を台無しにされた(throw a spanner in the works)」と失望を隠しません。もっとも、BREXITを受けた株安などリスク資産の下落は一時的にとどまったため、メインシナリオの実現性が高いとの見方を示します。IMFのレポートでは今後の不透明払しょくにはイングランド銀行をはじめ欧州中央銀行、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に掛かっていると指摘しつつ、オブストフェルド氏は金融政策以外に財政政策、インフラ投資、金融構造改革、銀行の不良債権問題の解決が必要と念を押しました。IMFレポートで「経済ンラビに政策ツールとのシナジー効果を支援する目的で過度に金融政策に依存しないように」とも釘を刺していたことも印象的です。通貨戦争の火種を起こした区内様子が伝わってきますね。

左側の濃い青がメインシナリオ、真ん中が下方リスクのシナリオ、右の薄い青が深刻なリスクシナリオ。

imf
(出所:IMF)

以下は、各国・地域の成長見通しで()内の数字は前回7月分あるいはその後の改定値となります。

2016年成長見通し

世界経済→3.1%(3.2%)
先進国→1.8%(1.9%)
米国→2.4%(2.6%)
ユーロ圏→1.6%(1.5%)
独→1.6%(1.5%)
仏→1.5%(1.1%)
伊→0.9%(1.0%)
西→2.6%(2.6%)
日本→0.3%(0.5%)
英国→1.7%(1.9%)
カナダ→1.4%(1.5%)

新興国→4.1%(4.1%)
中国→6.6%(6.5%)
インド→7.4%(7.5%)
ASEAN5ヵ国→4.8%(4.8%)
ブラジル→マイナス3.5%(マイナス3.8%)
メキシコ→2.5%(2.4%)
ロシア→マイナス1.2%(マイナス1.8%)

2017年成長率

世界経済→3.4%(3.5%)
先進国→1.8%(2.0%)
米国→2.5%(2.5%)
ユーロ圏→1.4%(1.6%)
独→1.2%(1.6%)
仏→1.2%(1.3%)
伊→1.0%(1.1%)
西→2.1%(2.3%)
日本→0.1%(マイナス0.1%)
英国→1.3%(2.2%)
カナダ→2.1%(1.9%)

新興国→4.6%(4.6%)
中国→6.2%(6.2%)
インド→7.4%(7.4%)
ASEAN5ヵ国→5.1%(5.1%)
ブラジル→0.5%(0.5%)
メキシコ→2.6%(2.6%)
ロシア→1.0%(0.8%)

2015年成長率

世界経済→3.1%(3.1%)
先進国→1.9%(1.9%)
米国→2.4%(2.4%)
ユーロ圏→1.7%(1.6%)
独→1.5%(1.5%)
仏→1.3%(1.1%)
伊→0.8%(0.8%)
西→3.2%(3.2%)
日本→0.5%(0.5%)
英国→2.2%(2.2%)
カナダ→1.1%(1.2%)

新興国→4.0%(4.0%)
中国→6.9%(6.9%)
インド→7.6%(7.3%)
ASEAN5ヵ国→4.8%(4.7%)
ブラジル→マイナス3.8%(マイナス3.8%)
メキシコ→2.5%(2.5%)
ロシア→マイナス3.7%(マイナス3.7%)

(カバー写真:Bruno Sanchez-Andrade Nuño/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。