共和党がトランプ氏の下で復活を狙う法律とは?

安田 佐和子

共和党

共和党全国委員会は、こちらで指摘させて頂いた通り前代未聞の波乱の幕開けとなりました。

党大会の初日からトラブル続きで、共和党寄りの経済・金融TV局CNBCですら、「ドナルド・トランプは初日に必要なことを成し遂げられなかった」と報じるほど。トランプ氏を正式な大統領候補として戴く共和党は、本選へ向け巻き返しを図る必要性が高まります。

党大会でまとまった政策綱領こそ、巻き返しを図る上で重要な役割を担うかもしれません。今回の綱領では「1933年に成立したグラス=スティーガル法の復活を支持する」との一文が挟み込まれていました

「グラス=スティーガル法」とは、銀行業務と証券業務の明確な分離を定めた法律です。世界恐慌の反省から成立したもので、預金者保護を目指し、銀行に対し投資銀行業務の兼業を禁じました。骨抜きになったのは、1990年後半。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)の元上司で、シティグループ元会長のサンフォード・‘サンディ’・ワイル氏が立役者として知られています。銀行経営陣が当時、グラス=スティーガル法の廃止を狙うなかワイル氏の大胆な経営戦略により、グラス・スティーガル法を葬りました。

その彼自身が心変わりをしたのが、2012年。7月にCNBCに出演し「銀行は解体すべきだ」と発言し、金融業界関係者の度肝を抜きました。かつての部下ダイモン氏との確執から、「あてつけ」との批判すら聞こえるほど、批判を呼んだのも致し方ありません。

>ダイモン氏、15年近く連れ添った上司であるワイル氏に解雇されバンク・ワンのCEOに就任した過去も。ワイル氏の息子を降格した、ダイモン氏がワイル氏を出し抜こうとしたとの諸説あり。

Sandy-Weill-and-Jamie-Dimon
(出所:Craine’s)

しかし4年を経て、ワイル氏の読みが正しかったことが明らかになりました。トランプ候補と言えばビジネスマンでありながらウォール街と関係性が強いとは言えず。大統領就任の暁には財務長官に元ゴールドマン・サックスのスティーブン・ナチン氏を指名するとも言われていますが、対立候補だったテッド・クルーズ上院議員の妻が勤務するゴールドマン・サックスを非難なぜ、トランプ氏はウォール街を目の敵にする法律の復活を目指しているのでしょうか?

答えは簡単、民主党の大統領候補の座をクリントン前国務長官に譲ったサンダース上院議員の支持層を取り込むためです。サンダース議員は討論会で何度となく同法の復活を求め、クリントン候補が取り成す場面がみられたことは記憶に新しい。また今回の文言は、ウォール街との距離が近いとされるクリントン候補が金融機関向けに掲げる「取引税」より、踏み込んだ内容です。さらに、政策綱領では米連邦準備制度理事会(FRB)への監視強化も挟み込んでいました。ここは、トランプ候補の主張とランド・ポール上院議員など共和党一派の思惑が一致したところでしょう。

世論調査でクリントン候補とトランプ候補の支持率が僅差にとどまるなか、共和党陣営としては必勝シナリオを提示しなければなりません。副大統領候補に選んだインディアナ州のペンス知事が宗教保守、自由貿易支持者である事情を踏まえれば、グラス=スティーガル法は勝利への生命線となり得ます。

(カバー写真:bradandhel/Flickr )


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。