今朝のFT記事を読みながら「われわれ日本人のエネルギーリテラシーが低いのは、行政の力により見事なセーフティーネットが構築されているからで、デメリットもあるけれどメリットも大きいなぁ」と考え込んでしまった。
読者のみなさまもお気づきのとおり、2014年半ばから約2年にわたり石油価格は暴落しているが、これが原因で、わが国の石油業界で働いている人たちが失業したとか、給料が下がったという話は聞いたことがない。わが国では経済原則がそのまま機能しないのだ、いや、見事なセーフティネットが出来上がっているからだ。これは、安定した社会を維持するためには、非常に大きなメリットといえる。
だが一方で、ひとたび想定外のことが起こると「パニック」に陥るリスクを内包しているのも事実だ。たとえば東日本大震災、あるいは1970年代のオイルショックが起こった時の社会現象を思い出せば理解しやすいだろう。さらに遡って、「石油に始まり、石油に終わったようなものだ」と昭和天皇が述懐された太平洋戦争にいたる石油政策はその冠たるものといえる。
やはり現実を直視し、事実をきちんと把握し、冷静に基本的対応策を考えることが大事なんだろうな。
こんなことを考えさせたFT記事は “North Sea oil and gas sectors faces first big strike in a generation” (July 22, 2016 5:37pm) というタイトルのものだ。
例によって筆者の関心にしたがい要点を紹介すると次のようになっている。
・シェルが操業している北海油田の8箇所のプラットフォームで、次の火曜日に24時間ストライキが予定されている。
・ストを予定している油田サービス会社のWoods Groupの組合幹部は「容易な決断ではなかったが、限界まで追い詰められているのだ」と語った。
・業界団体の Oil & Gas UK によると、英領北海において年末までに8,000人(2014年時点で41,700人が働いていた)が失業予定であり、関連業界を含めると、2014年には453,800人が働いていたが、年末には12万人以上が職を失い330,400人になる見通しだ。
・英国の石油ガス産業の中心地であるアバディーンで失業手当を請求する人は2014年末の2倍以上になっている。
・職を失っていない労働者も多くの犠牲を強いられている。ある求人サイトによると、英国の海上作業労働者の年収は、2014年には8万ポンド(約1040万円)だったが今や6万2千ポンド(約806万円)に下がっている。また条件も悪化しており、かつて「2週間働き、3週間休暇」だったのだが、いまでは「2週間働き、2週間休暇」となっている。最近シェルからメンテンナンス作業契約の3年間延長を勝ち取ったWoods Groupの、約400人の従業員の給与カットは3%と伝えられるが、福利厚生条件の悪化により、労働者によっては実質的には30%カットになる、と関連労組は主張している。
・争議解決のためいくつかの条件を提示しているWoods Groupの東部地区幹部のDan Stewartは、何よりも長期的な雇用維持が優先事項だ、という。
・Woods Groupにサービス業務を委託しているシェルは、火曜日前に合意に達せるように交渉して欲しい、としている。火曜日の24時間ストのあとも、短時間だが何度も作業停止が予定されているからだ。
・あるアナリストは、すぐにシェルの操業に影響は出ないが、もし争議が長引くと、必要不可欠なメンテナンス作業が遅延することは、将来問題を引き起こしかねないと指摘している。
昨年2月、弊著『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』をBS日テレの「久米書店」という番組でご紹介いただいたとき、店主の久米宏さんは「日本人のエネルギーリテラシーが低いのは、停電がないからだ」と喝破されていたなぁ。
何か問題が起こっても、すぐには社会生活に影響が出ないようにセーフティネットを作ってあるということは、確かにいいことだが、それが問題の本質から多くの人の目をそむけさせているという事実も忘れてはいけないんだろうな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月23日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。