ヘリマネを決めるのは日銀ではなく政府

7月21日の夕方にブルームバーグが「日本銀行内で、巨額の長期国債を買い続ける現在の量的・質的金融緩和の持続可能性について懸念を示す向きが増えつつある。複数の関係者への取材で明らかになった。」と報じたことで、ドル円は107円台から下落した。そこにさらに「日銀の黒田総裁が21日に放送された英BCCラジオとのインタビューで、ヘリコプターマネーについて「必要も可能性もない」との見解を示した」と報じられたことで、その流れが加速され、ドル円は105円台にまで下落した(円高が進行)。

28、29日の日銀の金融政策決定会合まで1週間あまりとなり、何かしらの観測気球のようにもみえるが、ブルームバーグの記事の内容をみるとその関係者は「新たな政策の在り方や、そのタイミングについても言及していない」としており、金融政策の方向性を示すものではなかった。しかし、市場では追加緩和観測が強まっていただけに、緩和なしとの選択肢の可能性が意識されたものと思われる。

日銀の追加緩和観測が強いのは物価が目標から遠ざかる一方であり、何かしらの手を打つ必要があるのではとの見方が背景にあるかと思う。しかし追加緩和手段以前に、異次元緩和で物価は上がらなかったこと、マイナス金利により異常に国債利回りが低下してしまって深掘りの意味がなくなった上に、これだけ国債利回りが低下しても目に見えた改善が起きていないこと、追加緩和が単純に円安に働きかけなくなったことなどなどの課題も山積している。

さらに国債の買入はほぼ限界に近づいているというのは債券市場参加者の共通認識とみられ、技術的にはあと10兆、20兆は増やせても、国債買入未達時期を引き寄せることになる。マイナス金利の深掘りは金融界だけでなく政権にも不評であり、ECBも深掘りは止めている。ちなみに21日のECB政策理事会では金融政策現状維持となっていた。

質的緩和として、ETFやREIT、社債等の買入増額にしても、市場規模からの限界や、すでに買入額が大きすぎることによる悪影響も懸念される上、戦力の逐次投入という格好になる。これだけでは市場も納得いかず、逆効果の恐れもあろう。それでもやらないよりましとしてやれば、さらに深みにはまる恐れもある。

このように日銀による追加緩和の可能性はその手段に限界もあり、個人的にはさほど高いとは思っていない。さらに黒田総裁がヘリマネに否定したことで円高が加速した理由が良くわからない。

このインタビューは6月に行われたもので、7月11日に黒田総裁がバーナンキ議長と会う前だから意味がないというつもりではない。バーナンキ氏に会おうが会わまいが、黒田総裁の「必要も可能性もない」との認識に変わりはないと思われる。当然ながらこのタイミングで記事が出ることは日銀も了解していたはずであり、それはつまり市場による過度なヘリマネ期待を後退させる意図があったとしてもおかしくはない。

そして最も注意すべきことはヘリマネと呼ばれるものの決定権は日銀にはないことである。ヘリマネは日銀の金融政策決定会合で決めるようなものではない。ヘリマネが「政府が市場性のない永久国債を発行し、これを日銀が直接全額引き受ける」というのであれば、新たな国債を発行するための法律が必要となる上、財政法上との兼ね合いをどうするのか国会で審議する必要もあろう。日銀が勝手に国債引き受けますからよろしくで済むものではない。

もちろんそれ以前にそのようなリスクある手段を取らなければいけないような状況下におかれているわけでもない。ヘリマネを期待するのは勝手ではあるものの、少なくともヘリマネを決めるのは日銀ではなく政府ということだけは認識しておく必要があるのではなかろうか。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年7月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。