ポケモンは、ハードパワーと化すか?

中村 伊知哉
狂騒曲というのは、こういう場面に使うことば。22日金曜に配信が始まって2日間、街中でポケモンが鳴りっぱなしです。
「ポケモンGO狂騒曲」 アプリランキング1位に (日本経済新聞)
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配信の翌日にはさっそく日本の投稿が世界トップに立ったとのことです。
ポケモンGO、ツイート今年最多 午前中で終業の会社も (朝日新聞デジタル)
中でも日経は熱い追っかけぶりを示し、産業としての期待感を煽っています。
 ポケモン、兜町・日銀・国会で相次ぎ出現 東証は「ポケストップ」に (日本経済新聞)
政府も注目、官邸も即日メッセージを発しました。
 「もう見つかってるんですか」 菅官房長官も驚いた官邸ポケモン報告 (J-CASTニュース)
イングレスの遺産が与党に加担した一方、
 ポケモンGO:自民党は「永遠の与党」? 画面に文字表示 (毎日新聞)
元民主くんも呼び覚まされることになりました。
 自民党を「永遠の与党」と表示、政界に波紋 民進党は説明スルー元民主くんが任天堂にお願い (産経ニュース)
熱い期待に対し、心配もかまびすしい。政府はスタート前から注意喚起しています。
 政府が「Pokemon GO」に異例の注意喚起 「ポケモントレーナーのみんなへのおねがい♪」
姫路城、スカイツリーは注意を呼びかけ、
 ポケモン 初の週末で観光施設などは注意呼びかけ (NHKニュース)
熊本城は抗議し、
 ポケモン 立ち入り規制の熊本城外すよう市が任天堂に抗議 (NHKニュース)
原子力規制委員会もご登場、
 「ポケモンGO」 原発の事業者に注意呼びかけ (NHKニュース)
出雲大社は禁止です。
 ポケモン 出雲大社が境内での使用禁止に (NHKニュース)
ちまたでもさっそくこぜりあい。騒動ユビキタスです。
 ポケモン 団地に無断立ち入り 住民と口論に (NHKニュース)
やだなぁ。青少年ネット利用のときのように、官邸ドローン事件のときのように、やすやすと、ポケモンGO禁止法なんてものができたりしないだろうなぁ。社会的な不安が持ち上がると、とりあえず規制って風潮が続いているからなぁ。
だって、効用も認めてやりたいんです。暗くこもったゲームの殻を破って、みんなをオモテに連れ出す。歩き回らせて、健康にする。それはwiiがゲームを健康マシンに換えようとした、その延長です。
 麻生氏「引きこもりが外に出た」ポケモンGOで発言(共同通信)
そして姫路城や熊本城や原発や出雲大社や団地や官邸に人を呼び寄せる、街や観光地や店の賑わいをもたらす起爆剤にもなります。ポケモンGOのエンジンであるイングレスがそうであったように。
そう、イングレスのビジネスモデルは、スマホゲームがガチャで稼ぐのとは違い、チェーン店などとの提携によるB2B。ポケモンGOも基本はそれを踏襲するようです。
 日本マクドナルド、「Pokemon GO」コラボ内容を明らかに 国内約2900店舗が「ジム」「ポケストップ」に(ITmedia)
その狙いは売上・利益じゃないんじゃないですか。インフラとして広く使わせ、ビッグデータを吸い上げて、より大きなビジネスに展開していく。イングレスをポケモンGOに展開したように、他の用途にも拡大していく。まだ見ぬ価値に結びつけていく。
 任天堂、「Pokemon GO」大ヒットも業績への影響は限定的”(CNET Japan)
運営主体のナイアンティックの狙いと、ポケモン社や任天堂の戦略が合致しているかどうかは存じませんが、このゲームが持つ価値は、目先の数字に表れないところにあって、その読み方で大きさが変わります。
無邪気に浸透し、無防備に出没する彼らは、リアルな世界に改めて厳しい目を向けさせます。意図しなくとも政治的な意味も持ち始めます。
ボスニアのNGO、「ポケモンGO」しながら地雷地帯に入らないよう警告 ピカチュウが地雷踏むGIF動画も(ねとらぼ)
北から南に誘導するポケモンを国境付近に大量に配備する。これを阻止するため北はポケモン弾圧を徹底する。紛争が勃発する。そんな空想も許されましょう。
 ポケモンGO、北朝鮮は利用可? 境界線付近に韓国の若者殺到(北海道新聞)

かつてジョセフ・ナイ ハーバード大学教授は、国際政治上の概念として、軍事・経済などの「ハードパワー」に対し、文化力たる「ソフトパワー」を提唱し、日本はポップカルチャーの力を活かすべきと指摘しました。クールジャパン論はこれに乗って盛んになったのです。

一方、その議論には常に、「マンガアニメゲームが日本向けのミサイルのボタンを止めてくれるのか」というせせら笑いが伴っていました。

ポケモンの誕生から20年。当時ぼくはアメリカでその熱狂を見ました。世代が巡り、改めてポケモンが世界で大人気を博するのは元気が出ることです。クールジャパン再び。

ただ、今回の破壊力は、はなからエンタメの枠を超え、従来のビジネスのモデルも超え、社会をざわつかせるだけでなく、国際関係にもさざ波を立てるかもしれない。ソフトパワーがハードパワーに転化する例になるかも、なんて思いを抱かせます。

しばし目を凝らしておきましょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年7月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。