クリントン氏、副大統領候補にケイン上院議員を指名

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民主党のヒラリー・クリントン候補は22日、民主党全国大会を前に遂に動きました。

副大統領候補にティム・ケイン上院議員(バージニア州)を指名したのです。

ケイン氏は58歳、5フィート10(178cm)。ハーバード・ロースクール卒の元弁護士です。カトリック教徒であり、ロースクール学生時代の1980年に1年学業を中止しイエズス会のミッションに参加、ホンジュラスで過ごしたためスペイン語が堪能で知られます。1994年にバージニア州リッチモンドの市議会に当選し、1998年にリッチモンド市長に選出。その後、バージニア州副知事を経て2005年に知事の座を射止め、2010年の任期終了を前に2009年から民主党全国委員会の委員長に就任しました。2013年からは、バージニア州選出の上院議員を務めます。

つまり、全米では20人しかいない「市長→知事→上院議員」のエリートコースをまっしぐらに駆け抜けた人物なのです。バージニア州知事時代は財政の均衡化の一貫として社会福祉プログラムの削減を目指すと同時に、インフラ整備支出の拡大を狙いました。ただし、超党派の反対で主な法案は成立しなかったとか。2008年には、大統領選に出馬したオバマ上院議員(当時)が副大統領候補として検討したといいます。

ケイン議員の強みは、クリントン候補が指摘するように「選挙で負けなし」の実績でしょう。2013年には、上院議員として初めて英語以外の言語で移民問題をめぐり議会で演説を行いました。

クリントン候補は、なぜケイン議員を指名したのでしょうか?まず、ライバルである共和党のドナルド・トランプ候補がランニング・メイトに白人で保守派のインディアナ州知事、マイク・ペンス氏を指名したため、サンダース候補を奪われるリスクが後退したことがあります。そのため、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)やシェロッド・ブラウン上院議員(オハイオ州)はリストから外れたに違いありません。

同時にトランプ候補が主流派に近い白人男性を指名したため、非白人である必要性もなくなったと言えるでしょう。トーマス・ペレス労働長官をはじめフリアン・カストロ住宅都市開発長官、コーリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州)が、ここで脱落したと言えます。

また、スウィング・ステートを確保したと言える。バージニア州は2008年と2012年こそ民主党候補を選出しましたが、1976〜2004年までは共和党候補を支持してきました。ちなみに、バージニア州と言えば共和党の予備選結果はトランプ候補でしたが代議員1人の差で勝利した事情もあり、裁判所が予備選に拘束されない投票を承認する案を認めたことでも知られます。

ここで、クリントン候補とトランプ候補並びに両氏が指名した副大統領候補の政策スタンスを比較してみましょう。

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(作成:各候補のサイトよりMy Big Apple NY)

興味深いことに、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をめぐり民主党、共和党の大統領候補が難色を示す割に副大統領候補はそろって賛成派でした。ペンス知事はその後も特にスタンスを変えたとされていませんが、ケイン議員はここに来て現状では支持できないと方向転換しています。そうは言いながら互いの政策綱領で明確に賛成・反対を表明していませんから、ここは流動的と見て良いでしょう。

グラス・スティーガル法については、共に復活させる可能性を点灯させました。共和党側は銀行規制における章ではなく行政府つまり大統領権限から立法府即ち議会に権限を取り戻すべきと主張する章で組み入れられたとはいえ、これまでにないアプローチです。クリントン候補は当初グラス・スティーガル法の導入に反対していましたが、民主党の政策綱領草案に「現代版」の導入について明記してあります。ここは、互いにサンダース票の獲得を狙う意図が見え隠れしますね。

民主党、共和党の副大統領候補コンビで気になるのは宗教です。ケイン議員はカトリックですから中絶には基本的に反対、ペンス知事は宗教右派のエバンジェリカル・カトリックを自称しティーパーティー寄りですから、言わずもがなですね。TPPにも両者は賛成しており、党としては将来的な政策の自由度を保つとはいえサンダース層の支持をつかめるかは不透明。投票率低下につながる可能性は否定できません。しかも、ケイン議員はエネルギー企業から寄付金を受け取っていた事情もあります。

それぞれ無難な副大統領候補を選びましたが、必ずしも無党派層を取り込めるかは不透明です。

(カバー写真:Facebook


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。