先月30日が「丑の日」と呼ばれ、日本人がウナギを食べる日といわれているという。「……という」と自信のない書き方をしたのは当方はウナギを知らないばかりか、丑の日と呼ばれる日があることも知らなかったからだ。ウナギとは全く縁のない人生を過ごしてきたから仕方がない。
それでは、なぜ「ウナギの話」を書くのかと聞かれれば、知人の外交官がウナギが大好きで一緒に食事する時、彼はウナギを注文し、当方は別の料理を食べながら、ウナギを食べる知人の姿を見る機会があったからだ。
ウナギを食べる知人に聞けは、「やはり、おいしい」という。そうだろう、おいしくないものを食べる人はいない。当方はウナギの姿を考えると、それを食べたいという食欲がなくなるから、レストランで注文することはない。
韓国外交官の知人は韓国レストランで昼食をとる時、ウナギを食べることが多い。韓国人もウナギが大好きだということを彼から教えてもらった。当方を配慮して日本レストランで一緒に食べる時もあるが、知人はウナギを注文することが増えていた。
そこで日韓のウナギ料理の違い、味の違いを聞いた。知人は少し考えた後、「自分には韓国式ウナギ料理の方がおいしい」という。韓国のウナギの場合、辛子のソースで味付けられている。日本の丑の日にみる、生きたウナギを串でさし炭火で焼く、あの香ばしいウナギは、ウィーンで味わえるはずもない。
自分が食べないウナギ料理の日韓の違いを聞いたとしても意味がないかもしれない。知人は韓国人だから、やはり韓国式ウナギ料理がおいしいと言うのは当然だろう。ウィーンのレストランで出てくるウナギがニホンウナギかヨーロッパウナギか知らないが、いずれも絶滅危惧種という。今は ほとんど中国産のものらしい。知人はそれを知っているのどうか分からないが、「ウナギはおいしい」と舌鼓をうつ。
数年前、店を閉じた日本レストランの関係者に聞いたことがある。うな重ファンのお客もいたが、輸入ウナギの値が上がり、採算が合わず、メニュー表から外したという。
当方は最近、クロアチアの漁師がとりたてのイワシをウィーンに運んできたので、それを買って天ぷらにして食べた。そのおいしさは格別だった。「やはり魚はとりたてを食べるのが一番だ」という料理の鉄則を思い出させてくれたものだ。
もちろん、魚だけではない。ウィーンの野外市場はオーストリア産の野菜がやはりおいしい。スーパーに並ぶ野菜類はスペイン産が多い。生産地からウィーンまで遠ければ、やはり鮮度が落ちる。だから、野菜類や果物類は基本的にはオーストリア産に限る。
ウナギが大好きな知人は今月中旬、3年の任期を終えてソウルに戻る。奥さん連れで日本レストランで先日、お別れの食事をした。知人は朝鮮半島の再統一について話し出した。「南北の再統一問題を経済的な観点だけで考えてはならない」「韓国動乱を知らない若い世代は南北の再統一を願っていない」と嘆いた。当方と南北問題を語る最後の機会と思ってか、知人は普段より饒舌だった。何かを伝えたかったのかもしれない。知人が南北の再統一を心から願っていることが伝わってきた。
知人夫妻をレストラン前で見送った時、過ぎ去った3年間の交流の日々が懐かしく感じられた。ウィーンでウナギ料理に出会えば、「ウナギはおいしいよ」といった知人の顔を思い出すことだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。