日本国債が急落した背景

久保田 博幸

7月29日の日銀金融政策決定会合の結果を受けて、債券市場の流れに変化が生じた。日銀の金融緩和に対する異常な期待感で買われていたものが、結果は追加緩和はあったものの予想されていたものより小粒(ETFの6兆円は決して小さな金額ではないが)であったことで、利益確定売りに押された。その後も売りは止まらず、日本国債は久しぶりの急落局面を迎えることとなった。

これは決定会合に向けて国債が買い進まれていた反動とも言えた。今回の債券相場の上昇において買われていたのが債券先物と中期債が主体となっていた。

超長期債については英国のEU離脱による余波により、すでに7月6日に20年債利回りがマイナスとなったところでボトムアウトしていた。国内投資家のニーズが引いたのである。

また10年債利回りがボトムアウトしたのは7月8日にマイナス0.3%台に乗せたところとなった。ただし、その後の10年債の下落基調は比較的緩やかなものとなっていた。

そして少し遅れて7月27日に2年債利回りと5年債利回りがそれぞれマイナス0.370%、5年債がマイナス0.380%をつけてボトムアウトした。29日の日銀金融政策決定会合への過剰な期待感が背景にあったものとみられる。

債券先物に関しては前後場だけでは7月27日の154円ちょうどが高値となった。その日のナイトセッションで154円01銭を付けており、これがいまのところの過去最高値ということになる。債券先物もここでピークアウトした。

7月28日に債券先物9月限は153円65銭まで下落し、20銭安の153円80銭で引けた。高値警戒もあったが日銀の政策変更への思惑による調整売りともいえよう。

そして日銀の金融政策決定会合二日目の29日の会合結果を受け、過剰な期待感を抱いていたむきの梯子が外された格好となり、債券先物は152円44銭まで急落し、1円20銭安の152円60銭で引けた。10年債利回りもこの日、マイナス0.170%に上昇(マイナス幅を縮小)していた。

この一連の流れからみて誰が仕掛けていたのは明白ではなかろうか。少なくとも日本の本来の投資家は20年債がマイナス金利をつけた段階で誰も手を出さなくなっていたように思う。それでも中期債や債券先物が買い進まれていたのは、マイナス金利でも中期債が購入可能な海外投資家と業者ということになろう。特に海外投資家がヘリコプターマネーを期待し、日銀の大胆な追加緩和を予想して買い仕掛けていた可能性が高い。だからこそ29日の先物や10年債、5年債、2年債の下げが厳しかったと言えよう。

これにより債券市場の地合いが変化した。8月1日の債券先物は寄り付きこそしっかりとなったが、2日の10年国債の入札も控えていることもあり、152円12銭まで下落し、36銭安の152円24銭で引けた。そして2日には10年国債入札が低調な結果となったことも手伝い、債券先物は一時150円66銭まで急落したのである。10年債利回りはマイナス0.025%とゼロ%に接近した。現物債はこの長期債と中期債が大きく下落した。

債券先物の152円割れは英国EU離脱をきめる国民投票のあった日以来、また151円割れは3月16日以来となった。英国のEU離脱によるリスクオフに日銀の追加緩和期待も乗っかっての上昇相場に転機が訪れ、元の水準以下にまで戻った格好となった。

この日本国債の急落は2日の欧米の国債売りを招くなどの影響も与えることとなった。日本国債の動きが海外市場にも影響を与えるのは最近では珍しい。

今後日銀がどう動いてくるのか。特に国債については、量も金利面でも日銀はその深掘りには躊躇しつつあるように思われる。フレームワークの変更があるとすれば、国債をこのまま買い進めることができる環境とは異なってくることも予想される。海外投資家がこのあたりをどのように判断してくるのか。今後の動きは要注目と思われる。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。