異例の財務相・日銀総裁会談の目的は期待のつなぎ止め

2日に帝国ホテルにて麻生財務相と日銀の黒田総裁が会談した。G7やG20と呼ばれる財務相・中央銀行総裁会議にはいつも一緒に出席しており、財務相と日銀総裁が意見交換するのは珍しくなさそうに見えるが、実は極めて異例であった。

日経新聞によると、財務相と総裁が公式に会談するのは最近では2013年1月に麻生氏と当時の甘利明経済財政・再生相、白川方明日銀総裁が2%の物価上昇率目標を導入する際に3者で会談した例があるぐらいだとか。

今回は政府と日銀の「結束」で市場の期待をつなぎ留めたい財務相側がセッティングしたようである。日銀総裁を財務省に呼びつけるようなかたちを取らないようにと場所も中間地点の帝国ホテルにするなどの気配りもあった。

麻生財務相はここで40年債の増発についても触れたとみられる。日経新聞によると2016年度に2.4兆円の発行を予定している40年債で数千億円上積みを検討するそうである。

この席で何故、わざわざ40年債の増発を示唆する必要があったのか。見方によれば市場ではヘリコプターマネーへの期待から円安株高債券高が進行していたが、決定会合では量もマイナス金利の深掘りはなかったことでそれによる失望感から国債やドル円が大きく下落した。今回、財務相が40年債増発について触れたのは、少しでもヘリマネの思惑をつなぎ止めたいからなのであろうか。それはそれでかなり、リスキーなものとも思えるのだが。

黒田総裁はこの会談後の会見で、緩和検証への思惑から「市場では緩和が縮小に向かうとの見方から金利が上昇したが」との質問に対して「そもそも総括的な検証自体が、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現する観点から何が必要かを明らかにするため。そのようなことにはならない」と緩和縮小を否定した(ロイター)。

このあたりは29日の総裁会見をみても明らかではあった。2%という目標は下ろさず、前向きの姿勢に変化はない。ただし、なぜか決定会合の声明文は「金融緩和の強化について」という黒田総裁以前の昔のスタイルに戻している。

日銀の黒田総裁はヘリコプターマネーについては完全に否定している。財務省にとっても国債の信認を低下させかねないこのような策を講じることは考えづらい。政府の経済対策に日銀の金融政策が歩調を合わせることでの相乗効果を期待するという考え方もわからないではない。財務相と日銀総裁が会って話しをするとなれば、あらためて財政政策と金融政策のコラボレーションへの期待も市場に広がって、との期待もあったかもしれない。

しかし、この会談を受けても市場の反応は鈍かった。それだけ7月29日の日銀の決定会合については妙な期待感が強まり過ぎていたともいえる。市場は政府・日銀にヘリマネを採用し一線を越えるように期待したが、そこまでの壮大な実験はさすがに出来なかった。そんな現実が浮き彫りになってきたことで、期待が剥落し円高株安と債券安を招いた。

そろそろ市場参加者も現実を見据える必要もあるのではなかろうか。どうしてヘリマネが必要なのか、ヘリマネで何ができるのか、ヘリマネで何が起きるのか。そもそもそんなリスクある政策を必要とするほど日本経済は危機的状況にあるのか。

市場の期待に応え、一時的な円安株高を招くためだけに、そんな危険に策を講じる必要はない。もし今回の財務相・日銀総裁がその期待をつなぎ止めるものであったとするならば、やや疑問を投げかけざるを得ない面もある。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年8月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。