天皇陛下の退位御意向で核心的問題になること

八幡 和郎

天皇陛下

生前退位の意向を周囲に示されている天皇陛下は、象徴としての務めについてのお気持ちを8日午後3時からビデオメッセージの形で表明される(※写真は宮内庁サイトより)。そののち、安倍首相の談話も出されるとも伝えられている。

お言葉の内容が明らかになってから改めて投稿するが、本日は、問題の所在を少し書いておきたい。

まず、なぜ退位なのかといえば、超高齢まで存命の君主が増えてきて、従来のように摂政で短期間しのぐということが実情にそぐわなくなってきたからだ。そこで、オランダ、ベルギー、スペインであいついで譲位が行われた。

また,ローマ法王ヨハネ・パウロ二世は生前退位はされなかったが、延命治療を回避されて亡くなった。その反省もあってその後任のベネディクト16世は実質上、はじめての生前退位をされた。

実際的にも、摂政に対して国民も外国人も君主と同じような権威もありがたみも持たないから国民統合の象徴としての力もなくなるし、外交上の力も落ちる。それならば、譲位した方が良いというのは理に適っているのである。

日本では、古代にあっては、だいたい30歳以上でなくては即位されなかったし、そのかわりに譲位の習慣はなかった。ところが、大陸諸国との交流ができて、それに倣ったのか,大化の改新のあと皇極女帝が弟の孝徳天皇に譲位された。

そののち、幼少でも即位されることが増え、逆に早々に譲位されて上皇として窮屈な公務からは解放されて権力をふるいつつ自由な生活を送られることが多くなった。

しかし、明治になって、ヨーロッパの制度にあわせて生前譲位を否定し、皇后陛下という制度も確立した。そのようにもともと、ヨーロッパンの制度にならったものだから現在のヨーロッパでの動きに合わせるのは自然なことだ(この点がもともと日本とヨーロッパで違う淵源の原則を持つ皇位継承問題とは違う)。

皇室典範改正の必要性

しかしながら、皇室典範には生前譲位についての規定がないし、明治時代に議論のすえ否定していたものだから解釈だけで乗り切るべきでなく、改正の必要がある。それに対して、法律改正で対処しようという考え方もあるが、これまで、皇室典範は形式的には法律と同格とはいえ、憲法に準じる重みがあると理解されていたのだから、私は適切でないと思う。とくに、問題先送りをしない姿勢の安倍首相にはふさわしくない。

必要なことは、まず、①「譲位の制度を創設し、その要件を定める」ことである。そうでないと、政治的圧力による退位を誘発したり、可能性としては、天皇の我がままによる退位というようなこともありえないわけでない。

ただし、憲法が生前譲位を予定してないのではないかという議論もある。しかし、終戦後、昭和天皇の退位が議論されたことはあり、そのときに、憲法で予定されていないからダメだということではなかったと思う。政治的意図による退位を防止するような工夫を皇室典範で定めればいいのではないか。

②譲位したのちの今上陛下の称号を決める必要がある。上皇か太上天皇かだろう。ちなみに、ヨーロッパでは譲位しても肩書きはそのままだ。

③皇位継承第一順位となられる秋篠宮殿下と悠仁親王の扱いを決める必要がある。皇室典範では、〈第八条 皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という〉とあり、改正しないと皇太子不在になる。そこで、皇太弟とか皇太甥(甥の音読みはセイかショウ)と呼ぶかだが、これは皇太子、皇太孫で良いと思う。

皇太子とは伝統的には立太子礼を経た親王の称号だが、鎌倉時代には皇子でなくとも立太子礼をしており、そのあとは、江戸時代まで立太子礼が行われなかったのであって、秋篠宮殿下が立太子されて皇太子,悠仁親王が皇太孫と呼ばれることは不自然でない。 

以上は最低限必要なことだ。しかし、安倍首相のような安定した権力をもっているとすれば、そこに留まっては惜しい。 

皇統維持のために布石を

秋篠宮殿下を皇太子、皇太孫とすることは、将来、皇室典範を改正して女帝や女系天皇を認めても、悠仁さままでは継承順位を変更しないことの表明に近い効果を持つだろう。つまり、すでに立太子されている皇太子や皇太孫を除外して女帝を立てるというのは普通には考えにくいからだ。

しかし、それだからこそ、皇位継承に混乱をもたらさないためにも好ましいのではないか。たとえ女帝や女系の天皇を認めるにせよ、それは、ほかに適当な選択がないときでないと国民統合の絆であるはずの皇室が分裂の原因になってしまうのは避けるべきだ。

もし、悠仁さまのあと男系の子孫がいなければそのときに議論すればいいことだ。

しかし、問題は別の所にあると思う。現在、陛下は82歳、皇太子殿下は56歳、秋篠宮殿下は50歳、悠仁親王は9歳である。仮に陛下がきりのいいところで85歳で譲位されるとして、皇太子殿下も26年後に同じ歳で譲位されるとすれば、そのときは誕生日が来ているかどうかで微妙に違うが、秋篠宮殿下が79歳で即位され、そのとき、悠仁さまは35歳である。そして、その6年後に秋篠宮殿下が41歳の悠仁さまに譲位されることになる。これを①とする。 

しかし、これは、やや不自然だから、②もう少し早めに皇太子殿下が秋篠宮殿下に譲位されるか、あるいは、③皇太子殿下から悠仁さまに直接譲位されるかが考えられる。

そこで、①②③のどれかを念頭に制度をつくるか、あるいは、どの選択肢も可能なようにするかを考えるべきだ。 

私はいずれの選択肢も可能なようにしておいた方がよいと思う。というのは、ベルギーではボードアン国王から弟のアルベール殿下のこのフィリップ王子に直接継承させるつもりで帝王教育がなされていたが、ボードワン国王が意外に早く死去されたので、急遽、アルベール殿下が即位された。 

フィリップ殿下が年齢は33歳くらいだったが、まだ未婚だったからだ。やはり、未婚の天皇というのはできれば避けて、結婚されて家庭的にも安定するのを待った方が良い。そのあたりを考えると、こうすると決めずに、いかようにも対応できるような芽くらいは出しておいた方が良い気がする。 

皇族の人数不足の解決に知恵はあるか

また,皇位継承は別にしても、皇族の数が減っていることは、公務や各種団体の総裁などのなり手がないという問題がある。とくに、秋篠宮殿下が皇太子になられると、殿下や妃殿下もこれまでの慣例から言えば、団体総裁などはできなくなる。 

このあたりも考えると、なんらかの形で皇族の数を増やすか、あるいは、皇族の身分でなくとも公務などを行えるようにしたい。 

その場合に候補は、「結婚後の女性皇族」と「旧宮家関係者」しかないわけだが、どちらなのかで厳しい議論がある。私の意見は、皇族を増やす前に、まず、公務などを結婚後の女性皇族と旧宮家関係者と「両方」にやってもらうことから始めれば良いと思う。 

どちらにも皇室との関係をもっていただいておけば、将来、どのようにするかの知恵も出やすくなる。 

肩書きは宮内庁参与かなにかで良いではないか。また、皇族でなくとも、海外ではプリンスとかプリンセスとか名乗っても諸外国の制度との整合性から言っても、なにもおかしくない。 

そのあたりまで、安倍首相のもとでレールを引いて、あとは、後世の人にゆだねてもいいと思う。

なお、皇室典範の改正について有識者会議を設けるという意見もあるが、皇位継承問題のときにそうした軽い位置づけの場に重大案件をゆだね、しかも、そのメンバーがいわば利害関係者も含まれていたことが混乱の原因になった。 

その轍を踏まないためにも、まず、皇室典範の改正の手続き法でも創って、そこに審議機関の設置を盛り込むベキでないかと思う。これはそれだけ重い問題なのだ。