都政改革本部を手伝うことになり、しばしば「たいへんですねぇ―」と同情されます。しかし、私は28歳の時からもう30年も改革ばかりやってきました。企業、公的機関それぞれ40くらいにかかわってきました。なので、改革は日常です。今回も淡々と実務的に取り組みます(といいつつ想定外の困難に直面し、きっと苦しむわけですが・・)。
今までやった改革のうち大掛かりかつ5年以上にわたるものはそれぞれ5つくらいあります。企業は重くて古くて巨大なものばかり。公的機関では大阪府や大阪市などが大変でした。
公的機関の改革は収益向上が目的ではないので企業コンサルティングよりも難しい。私も政府、自治体のほか財団や大学、美術館、病院、動物園、公営バスや地下鉄も経営評価をしましたが、企業改革よりもはるかに大変でした。
国連海事大学(スエ―デンのマルメにある)の評価と改革提案では、デンマーク、英国、スエ―デン、日本の4か国の合同調査チームで仕事をしましたが大学の使命を巡って激論が続き、厳しくもあり楽しい作業でした。
改革の成功条件
さて改革も経験する数を重ねるとだんだんと早い段階で成功への道筋が見えるようになります。
たとえば多くの経営コンサルタントは、社長と小一時間も話しただけで「うーん、この社長はまだ本気でないな」とか「この二代目オーナーは、もうすごい逸材。若いけど絶対化けるなあー」とか気が付くようです。知事や市町村長についても同じです。
成功する改革の基本は、
①提言を実行できる経営者(首長)がいること
②ものごとが動くタイミングであること
の2つが絶対条件です。
都庁のREADINESS
さて都庁はどうか。①は申し分ない。小池知事は、私が今まであった政治家の中でもダントツにセンスのよいリーダー、経営者です。
②もいい。劇的な選挙でしたし、改革に向けての都民の圧倒的期待が見えた。しかも時間はなく、オリンピックでお尻が切られている。のんびり改革というわけにはいかない。
情報の公開こそ最大のパワー
さて、都庁の場合、もうひとつ極めて重要な条件があります。情報公開の徹底です。これは、組織を動かすテコになります。
いい話も悪い話も情報公開されるとなると組織に自浄作用が働きます。いい話は公表されると高く評価され、励みになります。まずい話も公表して謝罪、反省し、てしまえば、あとは改善すればいい。
ちなみに万が一、プライバシー保護や秘密保持の必要などの理由なしに事実や数字を都民に公開できないという部門がでてきたらどうするか。関係した人たち全員が懲戒対象になるのは当然ですが、調査報告書に「○○部は△△の金額の内訳は公表できない(あるいは、なくした)と回答した」と報告書に明記するしかないでしょう。誰にもミスや勘違いはあり得ます。しかし、あまりに「なくした」「忘れた」というのが多い場合は、その部門の仕事のレベルが低いと言わざるを得ない。管理運営体制の見直しやルール変更、組織改編などが必要になるかもしれません。
このように情報公開は組織にとって虫干しのような効果がある。お日様に当てるといやなにおいや虫が消えていく。あれに似た作用です。
だから、都庁改革のコツは、ひたすら情報公開を徹底していくことにつきます。
改革の成果を紹介する2冊の本
さて、改革の成果ですが、企業の場合、守秘義務や対競合の作戦の都合上、開示できません。しかし、行政機関の場合は、情報公開の原則があってやった内容や成果が公開できます。
そこで、私は昨年、大阪府と大阪市の08年から15年までの7年間の改革の成果を検証した本を出しました。
『検証・大阪維新改革』(ぎょうせい)です。
この本は、有名な都構想や二重行政、橋下さんの話ではなく、大阪府と大阪市がどういう改革をやったのか、事業分野別に書いてあります。
バスの赤字が年間50億から6億にまで激減した秘密や地下鉄がお客様を増やし、運賃値下げに至った物語、あるいは地味な補助金の見直しの舞台裏や教育予算の拡充、図書館の改革の話など様々。大きなものから小さなものまで各分野の改革のドラマが、事実と数字で記述してあります。
ここで使った手法は公的機関ではどこでも使えます。都政改革でもこの手法は使えるでしょう。
実は、大阪市はその前の05〜07年の関市長の時代にも改革を経験しました。それは「関市政改革」と呼ばれています。(大阪では「橋下前」を紀元前と呼びますが、大阪年号で紀元前2,3年の話です(笑))。
私はこの関改革もプロデュースしたのですが、その手法をまとめた本が『行政の経営分析―大阪市の挑戦』(時事通信社)です。ここでは上の本では収録していない公営住宅や広報・広聴、区画整理事業、下水事業などの分析の手法と結果を紹介しています。
(なお、本に掲載できなかったものも含めた経営分析の対象事業67個の分析成果が大阪市役所のHPに掲載されています)
ちなみにこの本の著者は、「上山信一+大阪市役所」となっています。つまり、職員の皆さんと分析をして、本も一緒に書いたのです。
都庁改革でも、職員の方々と一緒にこういう成果本が出せるようになりたいものです。
編集部より:このブログは慶應義塾大学総合政策学部教授、上山信一氏のブログ、2016年8月19日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。